プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
棚橋弘至は1・4で何をたくらむ?
不気味な沈黙を続けるエースの心中。
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2016/12/01 11:30
11月5日の「パワー・ストラグル」(大阪府立体育会館)の試合後。床に倒れ込んだ棚橋。
レスラーが年齢を感じた時、口にする言葉とは?
この問答では内藤に押しまくられた形の棚橋だが、体調の良さは感じることができた。
以前よりも筋肉はナチュラルに見える。
約3カ月、封印していた場外へのフライング・ボディアタック、ハイフライフローも繰り出して、もう一歩のところまで来ている。
「もう少し」
差し出した親指と人差し指の間隔が狭くなってきていることを実感できる。
1・4のメインという扱いはもうないかもしれないし、その必要もないだろう。でも、そこに照準を絞って、体調をピークに持っていければ、内藤に勝って、やっとカムバックできたことになる。試合内容でも、オカダvs.オメガを上回れる自信はある。
「まだ新日本プロレスでやり残したことがある」と棚橋は言う。レスラーに限らずアスリートは年齢を感じると、こういう言い方をする。
「やり残したことがある」「足りないものがある」
今まで何度も、似た言葉を聞いてきた。
オリンピック・アスリートなら、金メダル。サッカー選手ならワールドカップや欧州チャンピオンズリーグの優勝トロフィーだ。
それぞれの心に「引退」という2文字がよぎった時、「まだやり残したことがある」「ひとつだけ足りないものがある」といった言葉を使って、それを払拭しようとする。
40歳。棚橋も、そういう年齢になった。
棚橋は、気持ちとは逆に「保留」という元気のない言葉を使って、表面では内藤に降伏して見せた。
「東京ドーム。今回はセミであきらめて、次からまた7年連続メインをめざせばいいか」
というもっと現実的ではないことも思いつきで口にしてみせた。
内藤が面と向かって「新日本プロレスは、棚橋の言ったことがすべて。棚橋が右といえば右、左といえば左」というなら、「じゃあ、そうするよ」と言って、それを行使しても構わない立場に棚橋はある。ドナルド・トランプ次期大統領のように悪役を演じてもよかった。
でも、それも言わない。