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失意の帰国からイラク戦劇的弾へ。
山口蛍、激動の1年はまだ終わらない。
posted2016/11/22 16:50
text by
原山裕平Yuhei Harayama
photograph by
Kiichi Matsumoto
サウジアラビアとの決戦を控えた10月下旬、山口蛍の心は、日本代表にはなかった。
「俺としては代表も大事だけど、チームありきなので。カップ戦とかであれば別かもしれないですけど。チームがこういう状況で、なおかつリーグ戦だから、それをほったらかして代表に行くというのは、自分の気持ちの中ではできない。そこは理解してほしい」
この時点ではメンバー発表はされておらず、「もし代表に招集されたら」という前提での発言ではある。とはいえ、山口はチーム最優先のスタンスを崩さず、代表招集を回避する道さえ探ろうとしていたのだ。
回避しようとしていたのは、サウジアラビア戦の前にあったオマーン代表との親善試合。この試合は11月11日に予定されていたが、その翌日にはJ2の試合が組まれていた。先述のコメント時、山口の所属するセレッソ大阪はJ1に自動昇格できる2位以内を目指せる位置につけており、12日に行われる東京ヴェルディ戦は、昇格戦線を左右する運命の一戦となる可能性があったのだ。
J1であれば、通常、代表戦が行われるタイミングでリーグ戦が行われることはない。しかし、J2の場合は普段と変わらずリーグ戦が実施される。J2クラブ所属選手ならではの苦悩ではあるが、山口は親善試合など二の次であり、自らの復帰を受け入れてくれた愛すべきクラブのために、全身全霊を傾ける腹積もりだったのだ。
「チームと協会とでうまく話し合ってもらえれば……」
山口は切実な想いを吐露した。
もしセレッソに自動昇格の可能性が残っていたら……。
結果的に、C大阪はオマーン戦を前に自動昇格の可能性が絶たれ、メンバー招集を受けた山口は予定通りに代表に合流した。
C大阪とサッカー協会の話し合いが行われたかは定かではないものの、仮にC大阪に自動昇格のチャンスが残されていたのであれば、どうなっていただろうか……。
オマーン戦でフル出場を果たした山口のプレーを見ながら、そんな想いを巡らせていた。
そのオマーン戦で及第点のパフォーマンスを見せた山口は、続くサウジアラビア戦でも、当然のようにスタメンに名を連ねた。