猛牛のささやきBACK NUMBER
「人のことは気にせず」新人で2ケタHR。
オリ吉田正尚、2年目も図太く生きる。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKiichi Matsumoto
posted2016/10/31 07:00
出場試合数は63にとどまったが、OPSも.854と高い指標を示した吉田。来季はシーズン通じた中軸になることを求められる。
「9本と10本では全然違うので、価値のある1本に……」
ファームでのリハビリ期間中はテレビで一軍の試合を見て、横浜DeNA筒香嘉智らの打撃を参考にした。
8月18日の北海道日本ハム戦でプロ初本塁打を放つと、ハイペースで9本の本塁打を積み重ね、3番を任されるようになった。その後、約2週間足踏みしたが、ホーム最終戦となった9月29日に10号を放った。
「9本と10本では全然違うので、自分的には価値のある1本になったかなと思います」
ワンプレーにあまり一喜一憂しない吉田が、この時は素直に喜びを表した。
1年目の成績は、4カ月近い離脱が響いて規定打席に届かなかったものの、打率.290、本塁打10、打点34。特に8月以降の活躍は、「大学日本代表で4番を務めた即戦力スラッガー」という前評判を証明するものだった。
復帰後は、打席で自分の間(ま)を作る余裕もできた。1球ごとに、体の前でバットを揺らし、自分の間合いに引き込みながら構える。
投手に怖さを与えても「人のことは気にしません」。
シーズン終了後のフェニックス・リーグでこんな場面があった。10月18日の東京ヤクルト戦。ヤクルトの捕手・西田明央は、吉田が打席に立っているとき、投手の杉浦稔大に向かって「合わせるな! 合わせるなよ!」と何度も、スタンドにまで響く大きな声をかけていた。
オリックスの田口壮二軍監督はこう語った。
「正尚の雰囲気でしょうね。基本的にはピッチャー主導で投げていくものだけど、打つバッターというのは、知らず知らずのうちにピッチャーが寄っていってしまうもの。やっぱりあれだけ振ると、ピッチャーも怖さは出るでしょうしね」
ただ、当の吉田は、すぐ後ろにいる捕手のそんな声が全く聞こえていなかったという。
「集中してるので。人のことは気にしません。自分のペースで行くだけです」
普段から先輩たちに「超のつくマイペース」と評される吉田は、打席でもマイペースを貫けるところが強みのようだ。