猛牛のささやきBACK NUMBER
「人のことは気にせず」新人で2ケタHR。
オリ吉田正尚、2年目も図太く生きる。
posted2016/10/31 07:00
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Kiichi Matsumoto
「もう1年か。早いっすね。あっという間です」
今年のドラフト会議の前日、吉田正尚はしみじみと言った。1年前、青山学院大4年だった吉田はドラフト1位でオリックスに指名された。運命の日を、吉田はこう振り返る。
「当日は散髪に行って、身だしなみを整えました。なんか変な感覚でしたね。それまでは進路ってだいたい自分で決めるからイメージできるけど、プロの場合は、選ばれて、『あ、あそこか』という感じなので。
僕はどこでもいいというスタンスでした。プロに入ってからが勝負だと思っていたので。呼ばれた時は……1位ですからね、やっぱり嬉しかったです。自分では1位ではないと思っていました。だって普通はやっぱりピッチャーでしょ、1位は。自分は外野手だし、3位ぐらいで行ければ上等じゃないですか」
いつも落ち着き払ってどこか達観したところのある吉田らしい。
ルーキーイヤーのスタートは、1月に左ふくらはぎ、2月に右脇腹を痛めて出遅れたが、オープン戦最後の3日間で猛アピール。開幕一軍に滑り込むと、1番DHで開幕戦にスタメン出場を果たした。そこから6試合連続安打を記録し、新人の開幕からの連続安打記録に並んだ。
トレードマークはフルスイングだ。身長173cmとプロ選手としては小柄だが、全身を思い切り回転させ豪快に繰り出すスイングは竜巻を起こしそうな力強さだ。ただその分、体にかかる負担も大きい。腰椎椎間板症を発症し、4月24日に登録抹消となった。
復帰してから9試合「まだ三振してないんですよ」。
一軍復帰は8月12日まで待たなければならなかったが、その間、体の強化だけでなく、頭も柔軟にして帰ってきた。
復帰から9試合を経た8月21日の試合後、吉田はぼそっとこう言ってほくそ笑んだ。
「復帰してからまだ三振してないんですよ」
3、4月は84打席で13三振だったが、8月12日に一軍復帰してからは33打席三振がなかった。代名詞であるフルスイングは変わらないが、それ一辺倒ではない柔軟さが加わっていたからだ。特に追い込まれてからは、逆方向に運ぶような巧いバッティングが目を引くようになった。
「前は簡単に終わっていたんですが、今はなるべく、追い込まれたら逆方向を意識して、フォアボールも意識するようになった。以前は全部きた球を(思い切り)振っていたけど、それだとピッチャー有利になってしまうので。いろいろ勉強する時間がありましたから」