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今こそ、知将オシムの言葉に学べ。
人を導き、組織を蘇らせる珠玉の人生訓。
posted2016/10/27 07:00
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph by
Takuya Sugiyama
サッカー日本代表監督として、「考えて走るサッカー」「サッカーの日本化」といったコンセプトを打ち出し、革新的な手法で選手や指導者に多大な影響を与えたイビチャ・オシム。
志半ばで脳梗塞に倒れ、辞任せざるを得なかったが、彼が残した言葉は、いまもなお普遍性があり、含蓄に富んでいる。
このたび、名将オシムに50回以上、合計数百時間にわたるインタビューを行なってきたフットボールアナリストの田村修一氏監修のもと、『オシム語録 人を導く126の教え』が刊行された。
田村氏曰く、「オシムの発言は一見、本筋と関係ないように見えて核心を突いていたり、多彩な比喩を用いて本質をとらえていたりするので、日本語に訳すのが非常に難しい」のだそうだ。
部下について、組織について……格言を。
例えば、第1章「部下を動かす言葉」として記された以下の言葉。
「2人のボクサーが拮抗している。ひとりは5発のパンチを出し、もうひとりは4発しか打たない。そして最後の5発目が違いを作り出す」
ボクサーの話をしているのかと思いきや、実はいきつく先はバルセロナでプレーするメッシのスプリント回数が相手DFを翻弄するという話なのだ。
その心は? 我々の日常生活に当てはめると、「質が高い」だけでは足りない、つまりは「高い質を保った上で、量でも凌駕せよ」ということか。オシムの言葉には、受け取る側に解釈の余地を与え、何度読んでも胸に響く本質が含まれている。
第2章「リーダーシップに必要な言葉」では「進歩は敗北から生まれる。5-0で完敗すれば、誰だってその原因を考える」という発言が引用されている。
その心は? 田村氏の解釈は「勝利より敗北から学ぶことが多いのは決して偶然ではない。勝利はすべてを隠す。何が悪かったかを考えること自体が、すでに進歩といえる」という逆説だ。
では、第3章「組織を構築する言葉」で掲載されている「まだ古い井戸の中に水が残っている。古い井戸に水が残っていたら、新しい井戸を探す必要はない」が意味するところは?
第4章「人生に効く言葉」の「大金を得て優雅な暮らしをするのは悪くないが、そこには過酷な義務が伴うことを忘れてはならない」の真意は?
さらに第5章「日本人に告ぐ」では、世界各国での豊富な経験と指導歴から導き出されたオシム独自の視点が明かされる。
縦横無尽の126の言葉に、答えはない。ただ、何度も繰り返し読みたくなる奥深さと、サッカー、いやスポーツの枠を超えた人生を生き抜くためのヒントが含まれている。