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ミシャと11年歩んだ通訳兼コーチ。
杉浦大輔が語る名将の涙と戴冠。
text by
轡田哲朗Tetsuro Kutsuwada
photograph byJ.LEAGUE.PHOTOS
posted2016/10/21 11:00
杉浦大輔コーチとミハイロ・ペトロヴィッチ監督。ついに掴んだタイトルは、浦和が一気に突き抜けるきっかけになるかもしれない。
ルヴァン杯のPK戦、ミシャはピッチ脇に残った。
そして再びタイトルに手をかけた今年のルヴァン杯の決勝、立ちはだかったのは再びガンバだった。PK戦にもつれ込んだ瞬間、杉浦コーチには「あとは選手に任せて引っ込んでしまうのではないかな」という思いがあったという。しかし、ミシャはPK戦を直視できずにはいたものの、その場に留まり選手たちやスタッフと共に肩を組んでピッチ脇に立っていた。
「多分、ミシャも戦っていたんじゃないですか。本当ならベンチや後ろに下がって任せたかったかもしれないですけど、ピッチに残ってみんなと戦おうとしたんだと思います。ミシャらしいですね」
そして、ラストキッカーとなった遠藤航がPKを成功させた瞬間、ミシャに念願のタイトルが舞い込んだ。杉浦コーチにとっては、これでようやくミシャが正当に評価してもらえるということが嬉しかった。
「僕がすごく嬉しかったのは、ミシャのこれまでの仕事が、タイトルを得たことで認められるということですね。これまで、本当に素晴らしい仕事をしてきたと思うんですけど、タイトルだけが取れなくて認められなかったのが、あの日までの状態だったと思うんです。そういう意味で、タイトルを取った意味は大きいと思います。彼の仕事の素晴らしさの証明をできたんじゃないかと思います」
人生を変えた11シーズンめのタイトル。
無冠の名将という評判を払拭したミシャは、決勝戦が終わると完全に疲労困憊だったという。ミシャを自宅まで送り届けた杉浦コーチも、早々に引き上げた。だが、それでも確信できることが1つあるという。
「ミシャは、その後も絶対に朝までプレミアリーグの試合を見ていたと思います」
念願のタイトルを取ってなお、飽くなきサッカーへの探求心と、サッカーへの妥協を許さない姿勢。誰からも慕われるミシャの柔和な笑顔の裏には、そんな「職人肌」の心がある。杉浦コーチにとっても「人生は間違いなく変わりましたね」という二人三脚の11シーズンの末に掴んだタイトルは、忘れられないものになった。