野球のぼせもんBACK NUMBER
再び無死満塁を耐えた「森福の13球」。
窮地ソフトバンクに勇気を与えるか。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/09/24 07:00
日本ハムとの直接対決で喫した連敗。それでも森福が見せた気迫のピッチングはソフトバンクファンから喝采を受けた。
「何というか、いい緊張感だったと思います」
「それでも、まさかノーアウト満塁とは思いませんでしたけど」
敵地ナゴヤドームの声援が大音量で耳に入ってきた。
「集中していたけど、聞こえていました。でも、何というか、いい緊張感だったと思います」
代打の小池正晃をシュートで空振り三振にとり、ブレイクしたばかりの平田良介を浅いレフトフライに打ち取った。そして最後は大ベテラン谷繁元信に「困ったら低めに投げる」と自分に言い聞かせて外角低めへシュートを投げ込んだ。力のないショートゴロ。川崎宗則が優しくトスをして3つ目のアウトを取った。
無死満塁をしのいだ球数は計11球。'79年の日本シリーズを舞台にした奇跡的な「江夏の21球」になぞらえて、「森福の11球」として現在も語り継がれているのだ。
森福は'11年から4年連続50試合以上登板を果たし、ブルペン陣の中心的存在として活躍した。'13年には侍ジャパンの一員に選ばれ、第3回ワールド・ベースボール・クラシックにも出場した。だが'11年と'12年は1点台を誇った防御率が'14年には3.02と悪化。'15年は32試合登板で5.82と低迷した。
「左キラー」としての役回りを遂行する。
今シーズン(9月22日まで)は47試合で2.08。
「昨年は体をひねって投げることを意識していましたが、今年は股関節をしっかり使って、シンプルに投げることを心がけました」
しっかりと体重を乗せ、スムーズに体重移動をする。本来の球のキレを取り戻した。しかし、信頼を取り戻すのは簡単ではない。役回りは「左キラー」。今季92人と対戦したが、右打者は4人だけだ。だが、今は与えられた仕事を全うするだけと心に決めている。
「残り試合が少なくなって、もう先が見えている状態です。チームは総力戦。1つでも多く、勝利に貢献したい」
逆転優勝という大きな奇跡を起こすためには、劇的な何かを少しずつでもいいから積み重ねていくしかない。奇跡が、奇跡を呼ぶ。
森福の13球が、第一歩となる。それを信じて。