野球のぼせもんBACK NUMBER
再び無死満塁を耐えた「森福の13球」。
窮地ソフトバンクに勇気を与えるか。
posted2016/09/24 07:00
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
Hideki Sugiyama
パ・リーグ3連覇に黄信号だ。ホークスは天王山を連敗した。
9月21日、首位陥落。翌22日には自力V消滅。
ついにファイターズにM6点灯を許してしまった。
試合終了直後のベンチ裏。工藤公康監督はいつも勝っても負けても一息ついてから会見に臨むのだが、この日はかなり早めに報道陣の前に姿を現した。
その顔は真っ赤だった。「あー」と力なく息を吐いた後に、少し沈黙の時間が流れた。そして「一番痛かったのは点を取った後に取られたことかな」とつぶやくように言葉を継いだ。それでも「1つも負けないつもりで戦うしかない。選手みんながそう理解している」とファイティングポーズは崩さなかった。
松田宣浩も「負けたのは事実。でも諦めたくない。勝つだけ。強いチームが勝つからね、最後には。それを信じて頑張ります」と必死に前を向いた。
どんな状況に置かれても、熱い闘志だけは絶やさない。昨シーズンに引き続いて「熱男」というスローガンを掲げたチームだ。どんな苦境でも、勝負は下駄を履くまでわからないのだ。
2点ビハインドの無死満塁も「絶対にゼロで抑える」。
敗れこそしたが、この大一番の中でホークスの執念を体現したシーンを目の当たりにした。
22日、第2戦の6回表のことだった。先発の武田翔太が追加点を許して1対3とリードを広げられた。痛恨の失点に動揺したのか、なおも四球を与えて、ノーアウト満塁の大ピンチを招いた。ここでベンチが動く。ブルペンから飛び出したのは小柄な左腕、森福允彦だった。
「しんどい場面だけど頼む」
佐藤義則投手コーチからそのように言葉をかけられた。1点も与えてはいけない場面だ。森福の腹の中は、いつも決まっている。
「マウンドに上がったら、絶対にゼロで抑える。それしか考えていない」