炎の一筆入魂BACK NUMBER
「劣っている自覚」こそ強さの秘密!?
広島の守護神・中崎翔太、究極の献身。
posted2016/07/06 11:50
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Hideki Sugiyama
“守護神”と呼ばれる抑えは特別なポジションだ。
各チーム1人。日本に12人しかいない。極度の緊張感に包まれた試合の最終盤にマウンドに上がる。チームメート、ファンの願いを一身に背負う。最後の1イニング、3つのアウトを取って当然の見方をされることもあるだろう。抑えたときの称賛よりも、打たれたときの落胆の方がはるかに色濃く感じられる。力強い直球か切れ味鋭い決め球か強力な武器を持ち、自分自身に絶対的な自信を持っていなければ、その役割は務まらない。そんな概念を覆すのが、広島で抑えを任され2年目となる中崎翔太かもしれない。
サファテのような直球も、山崎のような決め球もない。
昨季、中崎はデュアンテ・ヒースの不調もあり、4月半ばにセットアッパーから抑えに転向した。今季、正式に首脳陣から抑えを指名されたのは、オープン戦期間中だった。当然、中継ぎを務める者として、最も信頼の高い投手が務めるポジションを任され、意気に感じた。だが、同時に「僕でいいのか」という不安、疑問が沸いたのも事実だった。
中崎にはまだ抑えとして、絶対的な自信はない。
「僕にはサファテ(ソフトバンク)のような真っすぐはないし、山崎くん(康晃・DeNA)のような決め球を持っているわけではない」
驚くほど冷静に、自己分析する。心の中にある「自分は劣っている」という思いを、中崎は隠そうとしない。
だが、マウンドに上がるまでに、すべての不安を振り払う。わずかな隙が、命とりとなるポジション。邪念をなくす努力は、日々の生活から始まっている。
昨季中からほぼ無休でトレーニングを続ける。昨季最終戦翌日も球場に姿を見せたほど。
チーム2位の登板数を記録する今季も、ほぼ無休。移動日前日はウエートトレーニングを有酸素運動系のメニューに切り替えるなど、スケジュールや体調によってメニューを変える。食生活や、家で過ごす時間もほぼ変えない。安定した結果を求め、調子の波を最小限にとどめる努力を怠らない。