スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
優雅なイチローと三振率の低さ。
成績向上の裏に悪球打ちの減少が?
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byNaoya Sanuki
posted2016/06/14 17:00
日本人として初めての殿堂入りが確実なイチローの、ピート・ローズ超えには、全米から注目が集まっている。
「悪球打ち」を控えたのが大きな理由?
ひとつだけ指摘できそうな理由はある。
今季のイチローは「悪球打ち」を控えているのではないか。
ご承知のとおり、若いころのイチローは「打ちたがり」だった。わからなくはない。あれほどの打撃術を持っていれば、彼自身のヒッティング・ゾーンは、球審の考えるストライク・ゾーンよりもかなり広くなる。つまり、他の打者なら手の出ない悪球でも、イチローには打つことができたのだ。
悪球打ちの系譜は、昔からあった。ヨギ・ベラは、外角高目の球にヘリコプター・スウィングで立ち向かった。ロベルト・クレメンテやヴラディミール・ゲレロは、長い腕を思いきり伸ばして、地表すれすれの外角球を打ちにいった。'70年代に活躍したマニー・サンギレンは、元ボクサーという経歴にふさわしく、「頭さえ動かさなかったら、どんな球でもバットに当てられる」と豪語していた。
トリッキーな打撃術をあえて封印する。
かつてのイチローも、彼らの種族に属する気配があった。彼のバットは「魔法の杖」と呼ばれた。ワンバウンドの投球をヒットにしたこともあった。彼だけではない。意外に聞こえるかもしれないが、トニー・グウィンやカービー・パケットといった安打製造機にも、悪球打ちの傾向は認められたのだ。
だが、今季のイチローは「トリッキーな打撃術」をあえて封印しているように見える。先発で出場した際などは、とくに球をよく選んでいる印象が強い。厄介な球はファウルでしのぎ、辛抱強く好球を待って、インサイド・アウトのスウィングでハードに打ち返す。この基本に立ち返ったことで、イチローは好調を維持できているのではないか。
話を少しだけ、ピート・ローズとの比較に戻そう。私はローズという選手を好きになったことはないのだが、開幕時27歳(イチローが大リーグに初出場したときの年齢)から41歳(イチローは現在42歳)までの両者の成績を見比べてみると、数字的にはやはり驚くほど共通点が多い。