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優雅なイチローと三振率の低さ。
成績向上の裏に悪球打ちの減少が?
posted2016/06/14 17:00
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph by
Naoya Sanuki
イチローの日米合算安打数が、ピート・ローズの大リーグ記録(4256本)を超えようとしている。アメリカでは「参考記録」とされるだろうが、それにしても気の遠くなるような数字だ。
2016年のイチローは明らかに若返った。右方向への強い打球が増えたことはもちろんだが、もっと顕著なのは三振率が激減したことだと思う。過去3年の三振率と四球率を振り返ってみよう。(2016年は6月12日現在)
打席 三振率 四球率
2014: 385 17.7% 5.5%
2015: 438 11.6% 7.1%
2016: 127 4.7% 7.9%
MVPと新人王に輝いた2001年の三振率が7.2%、年間262本の史上最多安打を記録した'04年が8.3%だったことを思うと、今季の三振率の低さは驚異的といってよい。
もうひとつ、今季のイチローのコンタクト・レート(95%)は大リーグ全体(50打席以上)でもトップだ。しかもOBP(出塁率)が3割8分9厘という高水準に達している。球をバットに当てるだけなら、アンドラルトン・シモンズやビリー・バーンズなども率は高いが、彼らのOBPは3割にも満たない。両方とも高い水準を満たしているのは、ホゼ・アルトゥーベ(89%+.418)、ダニエル・マーフィ(88%+.411)、ノーラン・アレナド(88%+.361)といった好打者に限られてくる。
今季のイチローは明らかに「球が見えている」。
これはなぜだろう。イチローの動体視力は上がったのか。まあたしかに、老眼の進行が止まるという現象はしばしば起こる。それくらいなら、私も体験した。だが、動体視力の衰えは筋肉の衰えよりも進行が速いというのは、スポーツ医学の定説ではなかったか。実際、ヤンキースのユニフォームを着ていたころのイチローも、この弊を免れえないかのように映ったことがあった。
にもかかわらず、今季のイチローは、明らかに「球が見えている」。医学的治療を受けたとは聞いていないが、眼と手の連動は素晴らしいし、バットスピードも速い。加齢に負けない、あるいは加齢に逆行する現象がときおり起こるのは事実だが、野球の世界でこの掟破りを目撃できるとは思わなかった。