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金藤理絵の8年間が込められた泳ぎ。
競泳日本選手権を象徴する涙と笑顔。
posted2016/04/11 17:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
YUTAKA/AFLO SPORT
笑顔と涙がまじった表情は、象徴的だった。
4月4日から10日まで、競泳の日本選手権が東京・辰巳で行なわれた。リオデジャネイロ五輪代表選考大会である。代表になるには、決勝で2位以内に入り、なおかつ設定された派遣標準記録を突破すること(昨年の世界選手権金メダリストを除く)。記録の水準は高い。高いハードルを越えるチャンスは一回きり。失敗しても実績の考慮といった救済はない。極度の緊張と重圧を強いられる。
大会にあわせて、長期的に計画を立ててトレーニングを積むのはもちろんのこと、「1カ月以上前から想定して、メンタルのトレーニングも積んできました」と語る選手もいるほど、あらゆる準備が求められる。その結果がわずかな時間で問われる。
過酷なレースで、何人もの選手が、喜びを手にした。200m平泳ぎで優勝した金藤理絵もその一人だ。
何度も更新してきた日本記録を更に伸ばした。
100mでは3位で代表入りを逃し、中1日置いて迎えた200m予選から金藤は他を引き離す泳ぎを見せ、1位で決勝に進む。
決勝。70mを過ぎたあたりから抜け出すと、あとは金藤の強さが際立つレースとなった。残り50mでは日本記録更新への期待から歓声が上がる。
タッチする。タイムは2分19秒65。自身が2月に出した日本記録を更新する新記録は、今季の世界ランク1位となる。世界記録にも0秒54まで迫る快記録だった。
「8年間、長かったです」
涙を流し、笑顔を見せながら、レース後、言った。
金藤は2008年、北京五輪に出場し、200mで7位に入賞している。高速水着が席巻した翌年には3度にわたり日本記録をたたき出し、さらに期待を担う存在になった。
その後、暗転する。2012年のロンドン五輪代表を逃し、引退を考えた。現役続行を決めはしたが、その後も、何度も引退を考えては続けてきた。