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見ていて飽きない試合中の名波監督。
その“イズム”がジュビロに浸透中。
posted2016/04/09 10:50
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph by
J.LEAGUE PHOTOS
キリがないから、前半だけで数えるのをやめた。
J1第5節、大宮アルディージャ対ジュビロ磐田。磐田の指揮官である名波浩は、前半だけでピッチ脇にあるペットボトルの水を25回も口に運んだ。(本末転倒だが)ボールの行方を追って見逃してしまった給水も含めれば、おそらく30回ほどになるだろうか。とにかく名波は、試合中に何度も何度も水を含む。
加えて、とにかくずっと歩いている。
試合中はボールの行方に合わせるようにして、ベンチの前を行ったり来たり。シュートが枠を外れれば悔しそうな表情を浮かべ、目の前のペットボトルを取りながら踵を返し、ふらふらと逆方向に歩き始める。踵を返すタイミングはサッカーの“リズム”と合致していて、ピッチ内の選手が攻守を切り替えるように名波もスッと体の向きを変える。その“リズム”がまるで選手のように感じられて、見ているだけで面白い。
「試合後の会見の俺の声、ヤバいでしょ?(笑)」
もっとも、何度も水を口に運び、ふらふらと歩き回るからといって、それがキャリア1年半の新米監督に見られる“落ち着きのなさ”を意味しているわけではない。いたって真面目にそのことを聞いてみると、逆に思い切り笑われてしまった。
「試合後の会見の俺の声、ヤバいでしょ?(笑) 大声を出し過ぎて、喉が潰れちゃうのよ。試合中に水を飲まなかったら、たぶん全く声が出なくなるよ。だから、飲んでいるというより潤しているだけ。のど飴も口に入れているけど、病院の先生に聞いたら、常に潤しておくのが一番いいんだって。ずっと歩き回っているのは、立ちっぱなしだと膝に悪いから。俺の膝、常に動かしておかないとヤバいからさ」
なんとも拍子抜けの回答だが、本人が言うのだから真実なのだろう。いずれにしても、監督になっても名波浩の“人間らしさ”は全開である。監督といえばどちらかと言えば寡黙な、もっと言えば何を考えているのか分からない(見せない)人が多いが、彼はクールを気取るわけでもなく、何かを隠すわけでもなく、喜怒哀楽を惜しげもなくサービスする。その人間らしさが名波浩の魅力であり、磐田に浸透しつつある“名波イズム”だ。