2016年の高橋由伸BACK NUMBER

未完成で、不安定で、一寸先は闇。
だから、2016年の高橋由伸を見よう。 

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プチ鹿島

プチ鹿島Petit Kashima

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2016/03/24 11:05

未完成で、不安定で、一寸先は闇。だから、2016年の高橋由伸を見よう。<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

コンディションが悪いということで、期待していた捕手・阿部慎之助と岡本和真の二軍行きが開幕直前に決定。新人監督にとって辛い報道が続く……。

未完成で、不安定なものこそを見たい。

 さてここで書いておく。この「2016年の高橋由伸」は、そんな不憫な高橋由伸を応援しようという主旨ではない。「今年の高橋由伸を見ておく」ことはかなり貴重なのではないか? という提案である。

 いまいちばん未完成で不安定で一寸先がどうなるかわからないものは何だろうと考えたら、高橋由伸の今年しかないと私は思う。

 そう考えるようになったのは、アイドルを追う人の言葉を聞いてからだ。それまで私は、なぜ大人がアイドルを応援するのかわからなかったが、「儚いもの、今しか見られない姿だから応援する」と聞いてああなるほどと思った。なんか理解できた。同時にこれって野球選手にも同じことが言えるのでは? とも感じた。

 そのとき思いあたったのは大谷翔平である。

 才能がありすぎる大谷は、入団時から二刀流論争が起きていた。投手と打者、どちらかにしぼるべきなのか。でもアイドルを追う人のように「今しか見られない姿を見よう」と思いなおしたら、二刀流にチャレンジしてる「いま」を見ておくことは貴重な時間だと気づいたのだ。投手か打者にしぼって完璧な選手になってからではもう遅い。

 するとどうだ。もう大谷は完璧になりつつある。ピッチャーとして本格化してきた。昨秋の「プレミア12」での投げっぷりはいよいよ化けた感があった。いままで持て余していたように思えたあの長々とした体躯も、気がつけばどんどんプロの体として完成に近づいてきている。予想以上に早く「いましか見られない不安定な大谷」に別れを告げなければならなくなった。

入団時も、昨年も「巻き込まれ由伸」だった。

 そこで高橋由伸なのである。心の準備をして監督になった人とちがい、高橋はお家の事情で運命が変わった。急に監督になった今年はどんな日々が待ち受けているのか。どう考えても不安定であり未完成だ。

 高橋由伸は巨大な運命に巻き込まれるキャラクターである。プロ野球に入るときも希望球団はほかにあったのに「お家の事情」で急転巨人入りしたというのが定説だ。そして球団は、昨年の秋も高橋由伸の運命を変えた。この男にフレッシュな青年監督という役目を引き受けさせれば、ゴタゴタのイメージを一新できるというしたたかな計算も当然あったのだろう。「巻き込まれ由伸」が新しい章に突入したのである。

 高橋由伸が興味深いのは打席では天才であることは間違いないが、人としては「ふつうのひと」であることだ。インタビューではとくに面白いことは言わない。ハッタリもかまさない。

【次ページ】 原辰徳の図々しさに絶句する由伸の「ふつうさ」。

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