プレミアリーグの時間BACK NUMBER
リバプールの観戦ボイコット事件!
観客はカスタマーか、ファンか。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2016/02/13 10:40
「私は顧客ではない、ファンだ」という抗議文を掲げる人々の声はリバプール経営陣にどれほど届くのだろうか。
実はクラブは全員を無料で招待しても黒字?
では、プレミア勢にとって全席値下げは無理なのかと言うと、そういうわけでもない。ファンにすれば、放映権収入レベルが更に跳ね上がる来季からは「無理とは言わせない」というところだろう。極端な話をすれば、ホームでの全リーグ戦にファンを無償で招待しても増益となる単純計算が成り立つのだから。
極端ついでに、今季の優勝が全国的に望まれているレスターが来季連覇を達成したと仮定しよう。来季プレミア王者には、最低でも1億5000万ポンド(約250億円)のリーグ報酬が見込まれる。
一方、クラブが現行最高の1枚50ポンド(約8300円)のチケットで今季の平均動員数と同じ3万2000人をホームでの19試合に招く費用は3040万ポンド(約50億円)。報酬金との差額は1億1960万ポンド(約199億円)で、これは昨季王者のチェルシーと同額とした場合の今季報酬9900万ポンド(約164億円)を上回る額だ。
LSCはアンフィールド観客席の少なくとも7割に「庶民も手を出しやすいチケット料金」が適用されることを希望していた。その料金の目安として30ポンド(約5000円)が上限額として提案されてもいた。ところが今季プレミアでは、最低のチケット料金が20チーム平均で30ポンドを越えている。
各クラブで観客席の全てが値下げされることになれば、3年前から『フットボール・サポーターズ・フェデレーション(FSF)』が「Twenty's Plenty(20ポンドでもいい値段)」をスローガンに上限額導入を求めている、アウェイゲーム観戦チケット料金の問題も解決に向けて動き始める。現状はというと、プレミア勢の間では目標額よりも高い30ポンドを上限とする提案でも、過半数の賛同を得られずにいる。
「カスタマー」ではなく「サポーター」に。
アンフィールドの観衆が決起した翌々日、自らもシーズンチケット保持者の1人として77分に席を立った元リバプールDFのジェイミー・キャラガーは、『デイリー・メール』紙のコラムで「リバプール・サポーターは、全国各地のサポーターたちのために『いい加減にしてくれ!』と言って立ち上がったんだ」と述べている。
全国レベルで観戦ボイコットを実施することは難しいだろうが、FSFではプレミア20クラブで足並みを揃えて何ができるのか、何をすべきなのかを話し合うための会合が既に予定されている。ビジネス化が進むプレミアの世界で、金を搾り取られる「カスタマー」として扱われる傾向が強まっていた各クラブのファン。本来の「サポーター」としての形勢逆転に向けて、リバプールの「12人目」が実力行使でもぎ取った意義ある1勝を無駄にしてはならない。