松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
「ああいう勝ち方もあるんだな」
松山英樹、我慢の仕方と開き直り。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph bySonoko Funakoshi
posted2016/02/11 10:30
大観衆は、完全にファウラーの味方だった。しかし、淡々と戦い続けた松山に最後に勝利の女神は微笑んだ。
勝てない1年は、松山に我慢の仕方を教えた。
勝利がなかった昨年は、実りなき1年のようで、実を言えば、そうやって我慢の仕方を覚えるという大きな収穫があった。悔しくても、もどかしくても、我慢して我慢して淡々とプレーを続け、好機をじっと待つ。
そして、ついに好機到来を見て取れば、一気に攻めに出る。そのときこそ、開き直る。理想も不満も不調も全部吹き飛ばし、一心不乱にカップを目指す。
「やるべきことは、バーディーを取りに行くだけ。セカンドを入れに行くだけ」
今年の71ホール目の17番は、彼が開き直った瞬間だった。
ファウラーのミスを誘い出した強烈なオーラ。
短いパー4の17番。ドライバーで打ったファウラーの第1打がグリーン奥の池に転がり込んだ。2打差で首位を走っていたファウラーが陥った突然の窮地を、松山はこの上ない我が好機と捉え、バーディーパットを捻じ込むと、力強いガッツポーズを見せた。
首位に並んで迎えた18番。ファウラーは大歓声を浴びてピン3メートル、松山は5メートル半。一見、それは松山のピンチ。しかし、松山が先にこの5メートル半を捻じ込み、「どうだ。見たか」と言わんばかりに再び拳を握り締めると、チャンスだったはずのファウラーの3メートルは、あっという間にプレッシャーのかかるピンチへ様変わりした。
開き直った松山は、チャンスを逃さず捉え、生かし、ピンチをもチャンスに変えていく。6万人の大観衆が「リッキー」、「USA」を連呼すれば、逆に「その中で勝ってやる」と、アウェイのハンディをもモチベーションに変え、カンフル剤として利用する。その逞しさは、あっぱれだ。
そんな松山の覇気が、ついにはファウラーのスイングを狂わせた。プレーオフ4ホール目の17番。ファウラーが再び池に入れた3番ウッドのティショット。あのミスを誘い出したのは、松山が放っていた強烈なオーラ。
それが、開き直った松山の姿。あのとき彼は、間違いなく強かった。
勝者も敗者も去り、静まり返ったTPCスコッツデールの夜。松山の4日間をあらためて辿ってみた。