松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
「ああいう勝ち方もあるんだな」
松山英樹、我慢の仕方と開き直り。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph bySonoko Funakoshi
posted2016/02/11 10:30
大観衆は、完全にファウラーの味方だった。しかし、淡々と戦い続けた松山に最後に勝利の女神は微笑んだ。
「マツヤマは、何が不満で怖い顔をしてるんだ?」
そして3度目の今年。松山は過去の悔しさを携えて再びこの地にやってきた。
「去年、ここで負けたことがすごく悔しかった。去年の悔しさを晴らせるよう頑張りたい」
その想いとは裏腹に、今年の松山はショットの不調に喘ぎ、初日から渋い表情だった。前週のファーマーズ・インシュランス・オープンでは予選落ち。すぐ翌週の今大会でも「ショットが相変わらず悪い」と口を尖らせた。
とはいえ、彼のその渋い表情と彼の順位は、まったく比例していなかった。日没サスペンデッドになった初日を暫定首位で終えると、2日目は4位、3日目は首位と3打差の2位で終え、最終日を最終組で迎えた。「悪い悪い」と険しい顔で語る松山を遠目から見守っていた米メディアは、「マツヤマは何が不満で怖い顔をしてるんだ?」と首を傾げた。
そう、相対的に見れば、上位を維持しながら最終日を迎えた松山のゴルフは、決して「不調」と呼ばれる内容ではなかった。フェアウェイやグリーンを外す場面は確かに日頃より目立ってはいたが、そこからショートゲームで拾っていった彼のゴルフはすこぶる見事で、その見事さが3日間とも上位を保っていた彼の順位に反映されていた。
だが、高い理想を追い求める松山がより重視しているのは、相対評価ではなく絶対評価。「こんなショットを打ってるようでは優勝は狙えない」、「凌ぐゴルフじゃ勝てない」、「今週は腰が少し痛いけど、棄権するレベルじゃないので大丈夫」。
現時点の心技体を、自分自身が追い求める理想に照らしたとき、最高の状態からほど遠い。傍から見れば不調ではなくても、松山自身はそれが不満でたまらない様子だった。
自分への要求が上がれば、ストレスは溜まる。
3日目までのそんな松山の姿は、優勝に手が届きそうで届かずじまいに終わった昨年の松山そのものだったように思う。
勝利せずとも世界ランキングを着実に15位前後まで向上させていった昨年、彼のゴルフは相対的に見れば決して不調ではなかったが、彼自身は自らの理想に対する到達度、達成度に不満を感じ続けていた。
昨年の松山が「1年目のほうが勝てる自信があった」と感じていたのは、彼のゴルフが後退したからではもちろんなく、「要求するものが上がれば上がるほど、ストレスが溜まってくる」からだったのだ。
「しょうもないミスが増えた」
イライラが募り、思わずクラブを地面に叩きつけたくなっては必死にその手を寸前で止め、歯を食い縛った。