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時速35.71kmで走るリーガ最速の男。
ビルバオが移籍を阻止したイニャキ。 

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横井伸幸

横井伸幸Nobuyuki Yokoi

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photograph byAFLO

posted2016/02/05 10:40

時速35.71kmで走るリーガ最速の男。ビルバオが移籍を阻止したイニャキ。<Number Web> photograph by AFLO

よくしなる右脚から繰り出されるシュートは強烈そのもの。フィジカルに加えてイマジネーションも持つ新星が登場した。

時速35.71kmを記録し、リーガ最速男に。

 ウィリアムス最大の特長は、アフリカ系らしい身体能力だ。身長186cmで線は細いが当たり負けはせず、なんといってもスピードがずば抜けている。昨シーズンは第36節デポルティボ戦で時速35.71kmを記録し、35.53km/hのフェグーリ(バレンシア)を抜いてリーガ最速男と認定された。その上、試合の流れと相手の動きを正しく読む目を持ち、スペースをつくのが非常に巧い。足先の技術も優れ、ゴール前でのボール処理が巧み。

 ――つまるところ、ダイナミックなサッカーにぴったりの危険なアタッカーであり、観ていて楽しい。アスレティックの選手にしては、珍しくプレイに華がある。おまけに守備に回っても献身的で、現契約は'17年6月末までときたら懐に余裕のあるプレミア勢が放っておくわけがない。

 だが1月21日、アスレティックはウィリアムスとの契約を'21年まで延長することに成功した。2000万ユーロ(約26億円)だった違約金はCBラポルテと同じチーム最高の5000万ユーロ(66億円)まで一気に上げた。21歳にしてチームに欠かせない1人となったウィリアムスを、簡単には手放さないぞという意志の現れであり、たとえ売ることになっても安くはないぞという警告でもある。一方で、その裏にはクラブとバスクの未来に対するウィリアムスの影響を思う気持ちもあるのかもしれない。

バスク自治州の人種的多様性を象徴する存在に。

 現在バスク自治州(フランス南部やナバーラ自治州を含むバスク地方ではない)に住む4歳までの子供の20%から25%は、自身が外国生まれか、両親あるいは父親か母親のどちらかがが外国生まれというデータがある。

 そんな社会にあって、出自や社会的背景ではなく努力で結果を出してきたウィリアムスの存在は貴重だと、バスク移民管理局長ゴルカ・モレノはエル・コレオ紙で語っている。

「家族が経済的苦境に置かれている若者や移民にとって、サッカーや映画、政治、ビジネスの世界に鑑となる人がいることは重要だ。希望を生むからね」

 アスレティックの今季のカンテラを見ても、アフリカ系だけでもイニャキの弟とカメルーンのドゥアラ出身の2人を含む5人が登録されている。

 ウィリアムスの活躍と好条件での契約延長に、彼らが刺激されないわけがない。

【次ページ】 彼の存在が、次の“ウィリアムス”を生む。

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