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厳しい批判に晒された'15年のホンダ。
メルセデスを倒す日まで耐え忍ぶ……。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byAFLO
posted2016/01/02 10:40
マクラーレン・ホンダのテストを見守る新井康久F1プロジェクト総責任者。
浮き彫りになった日本と欧州の文化摩擦。
イタリアGPの会見があまりにも感情的になものになってしまったという反省からか、翌戦のシンガポールGPで、マクラーレンの広報は「個人を批判する類の質問は控えるように」という注意を会見前に促した。しかし、新井総責任者にとってもっとも辛いのは、自分に向けられた批判ではなく、ホンダを否定するかのような質問なのである。
個人を尊重するヨーロッパ社会と、組織を重んじる日本の風土との差は、その後のレースでも感じることになる。
シーズン終盤、満を持して投入したホンダの改良型パワーユニットが、アメリカGP以降立て続けにトラブルに見舞われたときのことである。
信頼性が一向に好転しないホンダの状況を憂いたヨーロッパのメディアは、「フェラーリもルノーも、外部からスタッフを招いて補強している。ホンダにはその予定はないのか?」という質問を何度か新井総責任者にぶつけるようになった。
メルセデスへの追従を否定したホンダの矜持。
フェラーリが'15年に復活してきたのは、メルセデスからスタッフを引き抜き、弱点だったMGU-H(熱回生エネルギー)を改良してきたからである。'15年にターボやMGU-Hで苦しみ続けたホンダが、なぜフェラーリと同じようにメルセデスのスタッフの引き抜かないのかを理解できないヨーロッパのメディアたちと新井総責任者との間に、再び溝ができた。
それでも、新井総責任者は、「だれかひとりを入れたところで、すぐにホンダのやり方に適応できるとは思わない」という主張を曲げなかった。
この言葉には、日本と欧米との文化の違いを感じるとともに、ホンダが持っているプライドと'16年以降に向けた可能性も感じた。
なぜなら、ホンダはメルセデスとは、異なる思想でパワーユニットを設計しているからだ。そして、その思想は'16年も受け継がれる。そのことは、ホンダのパワーユニットで'16年も戦うことを決めたフェルナンド・アロンソも認めている。