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もうひとりの“帰ってきた男”、
1年間広島を支えた新井貴浩の献身。
posted2015/12/23 10:30
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Hideki Sugiyama
黒田博樹が現役選手最高年俸6億円で契約更改した前日、もうひとりの“帰ってきた男”が契約を更改した。
12月16日、赤いネクタイを首に巻いた新井貴浩がマツダスタジアムの球団事務所で2000万円から3倍増となる6000万円でサイン。全国的な注目は黒田に譲ったが、影響力、献身性、安心感でチームを支えた働きは大きかった。黒田の1/10の金額でも、チームでの存在感はひけを取らなかった。
ちょうど1年前、競争を求めて阪神からの自由契約を選んだ。年俸は阪神が提示した7000万円よりも低く、前年の2億円から1/10となる2000万円。大幅ダウンも受け入れ、古巣であり地元の広島に帰ることを決断した。
8年ぶりに過ごしたシーズン。泥だらけになり、野球に真っすぐに向き合う姿は'07年までと変わらない。いや、当時よりも7年の空白期間を埋めるような熱い情熱が感じられた。
数字以上の貢献度。
「お前がいなかったらと思うとゾッとする」
鈴木清明球団本部長は事前交渉から新井にそう言っていた。
125試合に出場し、78試合で4番を務めた。打率.275、7本塁打、57打点。打率は規定打席到達選手の中でチームトップ。得点圏打率.311も球団から高く評価された。開幕前に4番候補のエルドレッドの長期離脱が決まり、開幕直後に新助っ人のグスマンも離脱。新井自身も右肘痛で出遅れながらも、得点力不足と言われた打線を引っ張った。
新井の貢献度は、数字で表せるものだけではない。春季キャンプから若手に負けぬ練習量を自ら課し、グラウンドではひと際大きな声でナインを鼓舞した。
「少しでも力になりたい。ケガで野球をできなくなってもいいという気持ちでした」
ケガを押してグラウンドに立ち続けた。喜びを叫びやガッツポーズで表現し、悔しさも体を使って吐き出した。会心の一撃でバットを放り投げる姿はお決まりのポーズとなった。