プロ野球PRESSBACK NUMBER
もうひとりの“帰ってきた男”、
1年間広島を支えた新井貴浩の献身。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byHideki Sugiyama
posted2015/12/23 10:30
プロ通算17年のうち、阪神に在籍したのは'08~'14年の7年間。来季は広島で11年目のシーズンとなる。
喜怒哀楽を素直に表わすベテランの姿。
チームがクライマックスシリーズ進出をかけて戦ったシーズン終盤。9月29日ヤクルト戦では、8回2死二塁から野間峻祥が左中間へはじき返すと、ベンチの最前列に飛び出し半身をグラウンドに投げ出して右腕を大きく回した。
勝ちたい――。その気持ちが言葉、行動になって表れる。喜怒哀楽を素直に、そして派手に表現する。見ている者は、実に分かりやすい。
最近では感情の起伏を抑え、気持ちを表に出さずにプレーすることが良しとされる風潮がある。そんな時代の流れに逆行する新井の姿は、黒田と共通している。
若い選手には不格好に映ったかもしれない。思わず笑ってしまった選手もいたかもしれない。
しかし、そんな姿が見る者の心を突き動かした。
際立つ存在感とチームへの献身。
3月27日、本拠地マツダスタジアムでの開幕戦。
「野球人生で一生忘れることができない」
阪神へ移籍した'08年に浴びた大ブーイングは、この日一番の大歓声に変わった。見る者だけではない。ともに戦う者もふくめ、誰もが古き良き野球人の姿に心を動かされた。
「新井さんがあれだけやっているんだから、僕たちももっとしないといけない」と近くで新井を見てきた1軍の若手は言う。
背中で引っ張っただけではない。若い同じ右打者は新井を頼り、それに新井は親身になって応えた。自身の打撃練習を終えても、助言を求めた選手が打撃練習を始めればベンチや控え室のモニターで打撃をチェックし、アドバイスを送った。
献身的な姿勢がより顕著になり、その形は多様化した。そこには、一度出ていった自分を受け入れてくれた広島への無償の愛がある。
「自分が勝負したい気持ちももちろんあったんですけど、すぐにあんな大声援をいただけると思っていなかったので、すぐにファンの方を喜ばせたいと変わった」