20年後の今も脳裏に残る、ゴールの情景。

　とはいえ、20年前を振り返りながら、松田はしきりに首を傾げるのだ。

「駅伝はチームワークが大事なのに、あのチームはみんな俺が、俺がでした。その一方で控え選手は冷めている。あんな雰囲気でなぜ勝てたのか、いまもわからないんです……」

　もしかすると中大の32年ぶりの優勝は、こういうことかもしれない。

　チームは確かに分裂していた。だが箱根路を走る10人は、結果を出すことで控え組を納得させなければならなかった。もうひとつ忘れてはならないことがある。彼らは、チームメイトから批判にさらされても勝つために信念を貫いた前田主将を「男」にしようと結束していた。

　大手町でのゴールの場面に話が移ると、ある情景が松田の脳裏に甦った。

「ゴールの瞬間、前田さんが泣いたんです。キャプテンの涙を見て、この人はこれほどまでにチームを思っていたんだと初めて気づきました。だって、みんな自分が箱根を走れるのかどうか、そのことしか考えていなかったんですから」