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[平成25年第89回大会優勝] 日本体育大学 「胸に刻まれた1年前の屈辱」
posted2015/12/17 07:00
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
AFLO
2012年1月3日、その日は日本体育大学の監督、別府健至にとって悪夢の一日となった。64回連続出場、前回まで一度も途切れたことのない伝統の襷が、8区終了時点で途切れてしまったからだ。
往路最下位の東京農業大学が復路で好走したこともあり、総合19位の日体大は最後尾を走る羽目になった。監督人生初の屈辱。一番後ろに付けた運営管理車の別府の耳に容赦なく罵声が突き刺さった。
「恥ずかしくないのか!」
「やめちまえ!」
このとき別府の頭の中に、恐ろしいイメージが浮かんだ。
このままでは襷どころか、連続出場も途絶えてしまうかもしれない……。
別府は腹を決めた。この最悪の流れを変えるには、思い切ったことをしなければならない、と。
3年生をキャプテンにするという宣言。
同校史上最低となる19位でのゴールを見届けた直後、部員が待つ集合場所に向かった別府は、1区で2位と気を吐いた2年生の服部翔大を見つけて、こう言った。
「おまえを新キャプテンにするからな」
「はい?」
服部は耳を疑った。それはそうだ、繰り返すが当時の服部は2年生。ということは、3年生の自分が4年生を差し置いて、新チームの主将を務めることになるではないか。戸惑う服部をよそに、別府監督は大勢の部員の前で、そのことを発表してしまった。
別府の決断は、部に大きな波紋を投げかけた。3年生主将の誕生にもっとも困惑し、憤っていたのが4年生である。
「なんで下級生の服部なんですか? 我々ではダメなんですか?」
だが、別府は容赦なく突っぱねた。
「おまえたちには、この部を引っ張っていく能力がない」
うなだれる4年生に別府は畳みかけた。
「服部が入院する父の最期を看取るために徹夜で練習に出続けていたことを、おまえたちは知らないだろう。おまえたちに、そこまでのことができるのか」