松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
松山「なんで言ってくれるんだろう」
ゴルフ界を担う仲間、とデイが指名。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph bySonoko Funakoshi
posted2015/09/28 16:30
ジェイソン・デイから名指しで「ゴルフ界を担う仲間」と言われた松山とダニー・リー(左から2番目)。
我慢強くなったのは、いいことなのか……。
「ねえねえ、松山くん。今年は我慢強くなったよね?」
駐車場にやってきた松山に、そんな言葉を投げかけてみた。
米ツアーに初めてフル参戦した昨季は、小さなミスにもカッとなり、そこから崩れて尻すぼみというパターンが多かった。だが今年は、ミスショットしてもグッとこらえ、淡々と歩いていく姿が印象的だった。どうしても耐えられないときは「あー!」と一声叫ぶに留め、我慢してはリカバリーに努め、巻き返していくパターンが格段に増えた。
この1年でずいぶん大人になり、我慢強くなったと思う。
「そう見えるなら、うれしいけど……」
小さな声でそう言った松山は、しかし、しばらく考えた末「でも、それがいいことなのかどうかは、わからないけど」
どうやら彼は迷っている。忍耐が大切、我慢強さが不可欠と思う一方で、感情をどう出し、どう抑えるか、勝利への渇望をどこでどう出し、どう抑えるか、その加減やバランスの取り方に迷っている。その迷いが、彼の姿勢や言葉、ひいては彼のゴルフにも反映されていたのかもしれない。
世界ランク1位から落ちたデイが松山に言及。
最終戦を制し、総合優勝に輝いたのは22歳のジョーダン・スピースだった。
全米プロを制し、プレーオフ第1戦と第3戦も制して世界ランキング1位に輝いたジェイソン・デイは、この最終戦では10位に終わり、わずか1週間で王座をスピースに明け渡すことになった。だがデイは、メジャー初制覇を達成した今季は「最高のシーズンだった」と振り返り、さらにこう言った。
「僕とジョーダンのみならず、リッキーやダニー・リー、ヒデキ・マツヤマがいる今のゴルフ界は素晴らしい状態にある」
デイは全米プロの優勝会見でも「マツヤマ」に言及していた。
「さっき、またジェイソンが『ヒデキ・マツヤマ』って言ってたよ」
「えっ? なんで言ってくれるんだろう? で、何て何て?」
「今は僕らの時代、ゴルフ界は素晴らしい状態。ヒデキもその中の1人だ、って」
実を言えば先週、「同世代が活躍しているけど、あそこに自分も入っていけそうと感じているか?」と尋ねたら、松山は「入りたいとは思ってないし、毎試合いいプレーをするだけ」と答えた。
しかし、それが本音ではないことは明らかだった。最近の松山はそういうところでも、自分の感情をどこまでストレートに出していいのか、どこまで抑えるべきなのか、判断や加減に迷っている様子なのだ。
だが、駐車場のアスファルトの上で、汚れたシューズを濡れタオルでごしごし拭きながら、素の顔に戻りつつあった松山は「僕もあそこに入りたーい」。半分ふざけながらも、ようやく希望を言葉に変えた。