野ボール横丁BACK NUMBER
「大人が設計図を書かないチーム」
早実で、清宮はどこまで伸びる?
posted2015/08/06 10:40
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Hideki Sugiyama
清宮幸太郎は清宮であるだけで十分楽しみなのだが、彼が早実という「読めない」チームにいることが、その楽しみを何倍にもしている。
振り返れば、完全な負け試合だった。西東京大会の決勝で、早実は7回を終え、0-5と東海大菅生に大量リードを許していた。
ところが8回表に一挙8点を挙げ、大逆転勝利。この展開で逆転が起きる確率は、おそらく100試合に1試合あるかないかだろう。
しかも、そんな劇的な試合が、甲子園を決める大一番で起きた――。
その確率を求めれば、さらに奇跡的な数字が弾き出されるだろうが、それができるのが早実である。早実の不思議さと言い換えてもいい。
和泉監督が生み出す、驚異的な可能性を秘めたチーム。
早実の特色を簡単に言えば、「大人が設計図を書かないチーム」ということになる。監督の和泉実は、意図的に教え過ぎない。指導が若い草木の「補助」になるより「枷」になることを怖れているからだ。
そのため、高校生の未熟さが露わになり、まさかと思えるような負け方をすることもある一方で、大人が計算しないぶん、東海大菅生戦のときのようなミラクルも起きるのだ。
「ミラクル」と書くと、まるで偶然に期待しているようだが、そうではない。高校生の場合、驚くほど短時間で、急激な成長を見せることがある。傍から眺めていると、それがまるで奇跡のように映るのだ。その典型例が、エース斎藤佑樹を擁し全国制覇を遂げた2006年夏の早実だった。選手1人ひとりが120パーセントの力を出し続けていたかのような、あの年の早実のようなチームは、おそらく和泉にしかつくれない。
あの年は斎藤ばかり目立ったが、その斎藤を支えたのは甲子園で急成長した打撃陣である。西東京大会では低調だったが、甲子園では7試合で77安打も記録した。斎藤だけでなく、チーム自体が生まれ変わっていた。
その早実で、注目のスラッガー清宮は、実にのびのびとプレーしている。まだ穴はあるが、伸びしろは無限大である。