「K-1に出て、自尊心は満たされましたね」

「K-1に出て、地上波で試合が流れるようになると、やっぱり自尊心は満たされましたね。良くも悪くも影響が大きかった。負けてボロクソいう人も、勝って喜んでくれる人も増える。急に親戚も増えました（笑）。キックボクシングでは、勝っても勝っても業界内にしか届かなかった。それに比べたら、負けてボロクソ言われたほうが生きた心地がしますよ。負けても人を感動させることができるんだって知ったのもK-1 MAXでした」

　しかしブームが去ると、街で「もう引退しちゃったんですか」と声をかけられることも。

「やってることは何も変わってないんですけどね。テレビでやらないとこうも違うのかと。会場が大きくても小さくても、お客さんの気持ちの重さって一緒のはずなんです。僕だって、（大会場ではない）後楽園ホールで見た小林聡vs.オスマン・イギンの逆転KOを一生忘れないですから。でも、凄いことをやってるからこそたくさんの人に見てほしいと思う」

“第二の魔裟斗”を目指さなきゃいけないような雰囲気。

　旧K-1では、「盛り上げようと思って、けっこう頑張りましたよ」とも言う。ルールに合わせた部分もあるが、ファイトスタイルがどんどん好戦的になった。テレビ用のインタビューでは、スタッフに求められるコメントをするようになった。

「コメントの撮り直しはよくありましたね。『倒されてもいいからKOを狙います』くらいのことを言わなきゃいけないんですよ。『テクニックで相手の光を消す』なんて絶対NG。K-1に出る、テレビに出るっていうのはそういうことなんだと思ってましたけどね」

　ただ、そこに画一的な雰囲気を感じてもいた。簡単に言えば、当時は「日本人選手全員が“第二の魔裟斗”を目指さなきゃいけないような雰囲気」だったのだ。

「でも、全員がスターになれるわけじゃないですよね。僕だってスターっていうガラじゃない。太陽は一人か、せいぜい二人じゃないですか。サッカー選手が全員、本田圭佑みたいだったら暑苦しくてしょうがない（笑）。野球でいえば、こっち（名古屋）では荒木、井端もヒーローですから」

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