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村田諒太がメイウェザーに会った日。
2014年の5月1日、2015年の5月1日。
posted2015/05/12 10:50
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
AFLO
ちょうど1年前の2014年5月1日――。
ボクシングミドル級のロンドン五輪金メダリスト、村田諒太はプロ4戦目に向けた合宿で“聖地”ラスベガスにいた。そのタイミングで全米ボクシング記者協会主催の年間表彰式パーティーが催されるとあって、村田も招待を受けたのだ。
マイク・タイソン、ロイ・ジョーンズ・ジュニア、バーナード・ホプキンス……ボクシング界のビッグネームが顔をそろえるなかに、試合を2日後に控える現在のスーパースター、フロイド・メイウェザーの姿もあった。村田はメイウェザーにも挨拶し、わずかな時間ではあったが交流を持つことができた。
翌日に行なったインタビューで、メイウェザーに会ってみて何を感じたのかを尋ねてみた。村田は真っ直ぐな目でこう答えた。
「人って生まれ持った運とか、育ってきた環境の運とかいろいろあるって言うじゃないですか。ボクシングをやるうえで、(自分に)もう一つあるとすればめぐり合わせの運。いろんな人に出会って刺激を受けて、影響されて自分の人生が活性化されてきましたから。今回、メイウェザーに会ってみて、凄く潤滑油になりました。でも“あの場”を意味あるものにするには、結果を残すしかない。それこそ自分次第だと思ってますよ」
ちょっと驚いた。
ボクサーとしてのタイプは違うと言えど、年収100億円を超えるボクシング界のトップに立つ男と対面すれば、多少なりとも憧れ目線に近い言葉があるのかなと勝手に思い込んでいた。
だが違った。刺激と影響の対象としてのみ、メイウェザーを見ていた。
聖地の雰囲気を楽しむのではなく、全てを吸収する。
村田は3日に、MGMグランドで行なわれたメイウェザー対マルコス・マイダナ戦を観戦している。「ラスベガスで試合を観るのは初めて」と言うし、自他ともに認めるボクシングマニアならばなおさら心を躍らせるものだ。しかしここでも彼は静かにじっとリング上の戦いを見つめていた。
メイウェザーも、MGMグランドも村田にとっては憧れの対象などではなく、いつかここに立つ現実をイメージしているかのように、筆者には見えた。“聖地”の雰囲気を楽しもうというより、すべてを吸収しようとしていた。