フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
羽生結弦が見せた王者の誇りと、
男子フィギュア最悪の事故の背景。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2014/11/10 16:30
痛々しい治療跡を見せたまま、最後まで滑りきった羽生。フィギュア界だけでなく、他のスポーツジャンルからも、その強行出場と現場の医療態勢を巡って議論が巻き起こっている。
この事故の後で滑りきったコフトゥンの強さ。
SP、フリーともにトップを保って優勝したのは、ロシアのマキシム・コフトゥンだった。
凄惨なアクシデントは、他のスケーターの精神にも大きな動揺を与える。2000年ニース世界選手権で、ウクライナのペアが転倒して男性が脳震盪を起こした直後、次の滑走だったカナダのペアは脚に力が入らず、演技を途中で中断したことがあった。そのくらい、選手の事故が次に滑る選手に与える影響は大きいのである。
19歳のコフトゥンにとって、羽生のフリーの後に集中して演技をすることは、簡単なことではなかっただろう。だが4回転サルコウで転倒した以外、全体をまとめてトップを保ったことは賞賛に値する。
また羽生と衝突したエン・カンは、いったんは棄権宣言をしたものの、羽生の続行を耳にして本人も棄権を撤回。SP3位から順位を落として総合6位となった。
この中国杯で羽生の見せた強さと勇気は、多くの人々に感動を与え、今後も語り継がれていくだろう。だが同時にこの一件が、怪我をしても無理にでも滑るのが強さの証明、という風潮を選手たちの間に広げていくようなことがあってはならないと思う。
思いがけない展開の中国杯の男子だったが、このようなドラマだけは二度と起きないことを願いたい。