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錦織圭、過去3戦全敗のマリーに完勝。
「違う自分になったと思い込んだ」
posted2014/11/10 11:15
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph by
Getty Images
今季の成績上位8人だけが出場できる、ツアーファイナル。地元イギリスのアンディ・マリーとのラウンドロビン(予選リーグ)初戦、錦織圭はストレート勝ちを収めた。
その瞬間、錦織は小さく拳を握り観客の声援に片手を挙げて応えたが、勝者の反応はそれだけだった。
BIG4の一人で、世界ランク最高2位のマリー、しかも過去に3戦全敗と苦手とする相手をストレートで倒したという現実と、錦織のリアクションが釣り合わない。
ちょうど1年前、錦織は「だれを崩してみたいかと言われれば、マリーが一番」と話している。インテリジェンスと水も漏らさぬ守備を併せ持つこの相手には、錦織が繰り出す攻撃がなかなか有効打にならない。
「やっていると、ハマっちゃうんですよ、彼のプレーが」
錦織はそう苦笑した。だからこそなんとかして攻略したい、勝ってみたいという思いが強かったのだろう。「勝つことによって何か変われるような気がする」。そんな言葉さえ口にしていた。
全米以降、トップ10選手に対して6勝1敗。
しかし、この1年で――マリーから初勝利を奪う前に――錦織のすべてが変わった。ショットの質、そして自分に対する自信。全米以降のトップ10選手に対する勝利は、これで6つとなった。黒星は、マスターズ1000のパリ室内でノバク・ジョコビッチに喫したものが唯一だ。自信の大きさは「勝てない相手ももういないと思う」という、全米での彼の言葉に集約される。今大会の開幕前には「全部勝ちたい。いいテニスをすればチャンスがあると思う」とも語っていた。
シングルスの大会開幕戦となったこの試合。大音響と照明で観客の気分をあおる派手な演出に迎えられ、選手がコートに現れた。色鮮やかな光線が場内とコートを照らす。ツアー最終戦、年間王者を決める戦いとあって、祝祭感が漂った。
四大大会やツアー大会とまったく違うムードも影響したのか、第1セットの立ち上がりは錦織に硬さが目立った。特にファーストサーブが不調で、このセットの集計では40%という低確率だった。