野球クロスロードBACK NUMBER
プライドと現実の狭間で揺れる思い。
江尻、高橋信、藤井のトライアウト。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2014/11/10 11:30
日本ハムから巨人を経て、オリックスで3年目のシーズンを過ごし戦力外通告を受けた高橋信二。今季は出場が10試合、6安打だった。
ソフトバンクの江尻慎太郎が安堵した理由。
ソフトバンクの江尻慎太郎も、彼らと同じ気持ちでトライアウトに参加した。
「今日来てよかったです」
江尻は安堵の表情を浮かべながら、自らのパフォーマンスを総括した。
日本一となったチームの場合、戦力外を通告される時期が日本シリーズ後になるため調整が難しい。日本ハム、横浜(DeNA時代を含む)と3球団で中継ぎとして働いてきた江尻をしても、「急ピッチでコンディションを整えた」と吐露させるほどだった。本来ならば、1回目は諦め11月20日に行われる2回目のトライアウトに照準を合わせて調整するはずだったが、各球団の首脳陣クラスが集結するのは1回目がほとんど。それらを熟考した上での決断だった。
江尻は打者4人を無安打に抑えた。最速145kmをマークするなど、完璧なパフォーマンスを披露したことが、「今日来てよかった」という充足感にも表れていたわけだが、好投の要因を挙げるとすれば、やはり経験があったからにほかならない。
江尻が立てていた、明確なプランとは。
江尻はトライアウトでの登板に際し、明確なプランを立てていた。
「真っ直ぐを元気よく見せないとダメだと思っていました。来年38歳になるピッチャーが変化球をたくさん見せるより、真っ直ぐで抑えられるところを見せたほうがアピールになるじゃないですか。もちろん変化球も投げましたけど、球数の3分の1以上は真っ直ぐだったんじゃないかな? 『いろんなことができますよ』というのも見せつつ、そこはこだわっていた部分がありましたね」
トライアウトに参加する選手のほとんどが、一軍経験が少ない20代の若手である。
彼らは、「今、自分が持っている全てを出そう」とセールスポイントを前面にアピールしようとする。もちろん、それが悪いわけではない。そのくらいがむしゃらな姿勢がなければ再起を果たすのは難しいといってもいい。
だが、ベテランは違う。
30代後半に差し掛かっても現役であるということは、必然的に一軍で最低限の結果を残してきたことになる。彼らがどんな選手であるかは誰もが知るところなのだ。
その年齢で戦力外通告を受けるということは、「峠を過ぎた」と判断されたとしても仕方がないのかもしれない。だからこそベテランは、多くの武器を見せることよりも、「今、一番見てもらいたい要素」にこだわるのだ。