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<トリプルスリーへの接近> 山田哲人 「こんなん想像してなかった」
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byNanae Suzuki
posted2014/11/07 11:30
大先輩、宮本慎也の言葉がメンタルの安定をもたらした。
毎日の確認作業がスイングの軌道にぶれをなくした。コンスタントに安打が生まれるようになったのも、ホームランが急増したのも、「バットがボールの下に入るようになった」というひとつの事実に起因すると山田は見ている。
打撃練習が技術の向上をもたらし、目に見える数字という形で実を結んだのは、つらさを感じた4月にバットを振ることをやめなかったからだ。ここにこそ、脱皮を遂げた真の理由がある。
「今年は振る量が違います。去年はちょっとしんどかったら、全体練習だけやったり。個人練習でそこまで追い込むことはしなかったですから」
転機は昨季の終盤にあった。最も尊敬すべき存在として名前を挙げる宮本慎也選手兼任コーチ(当時)から、こう言われた。
「調子には波があっても、メンタルは一定であるように。それはできるやろ?」
打席の結果に一喜一憂し、その気持ちの動揺を引きずりがちだった山田の心に、大先輩の言葉はじわりと染みた。城石憲之コーチにも同様のことを指摘され、山田は「メンタルの安定」をこれからの目標とすることを決めたのだ。
3安打した日は「ウキウキで」、5タコをたたいた日は「最悪や」と凹む。今でも感情の自然な上下を無理に抑えこむことはしないが、すぐに明日を見据えて切り替える習慣が身についた。
「『俺、今年だけじゃないの?』って思ったりします」
シーズンが最終盤に差し掛かり、周囲は「日本人右打者として初の200安打」へ期待を寄せる。初のタイトルとなる首位打者獲得も射程圏内だが、22歳に浮かれたところはない。むしろ心の大部分を占めるのは、漠とした不安だという。
「自信はついてないです。ふとこれからのことを考えてしまって『俺、今年だけじゃないの?』って思ったりしますし。今の成績をキープするのも厳しいので、シーズンがもう終わってほしいぐらいで。巨人の坂本(勇人)さんみたいに、勝負強くて、毎年結果を残せる選手になりたいんですけどね」