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45歳、武豊はなぜ好調なのか?
理想と「今のベスト」との狭間で。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byYuji Takahashi
posted2014/09/13 08:00
9月7日の小倉9R若戸大橋特別で復帰後初となる64日ぶりの勝利を挙げた武豊。
「今の自分にとってのベスト」を追い求める。
彼が復調した要因はいくつもあると思うのだが、何より大きいのは、'10年の落馬による左肩(鎖骨)の骨折による痛みが完全に癒えたことだろう。
その怪我以降、理学療法士に体のバランスをみてもらい、肩甲骨を使った腕の使い方を習得するためのトレーニングなどをするようになった。
そして、騎乗フォームに関しては、「今の自分にとってのベスト」を追い求めるようになった。年間200勝以上していたころから10年ほど経ち、45歳になった。自覚がなくても体が変わってきている。それを受け入れ、今の自分の体に合った騎乗フォームを採り入れ、また結果が出せるようになったのだ。具体的には、以前より鐙を若干長くしているという。
今なお持ちつづける、理想のフォームへのこだわり。
だからといって、年間200勝していたころのフォームに対するこだわりを捨てたわけではない。何度も大怪我をしたり、10年ほど経ったとはいえ、あの乗り方をしていたのも「自分」であることに変わりはないのだから。
そうして好結果を出すことが良質な騎乗依頼の呼び水となり、いい馬に乗れば勝つチャンスが大きくなり……という望ましい循環に、また自分を乗せることができるようになってきた。
成績が伸びなかったころは年齢的な衰えを指摘する声もあったが、騎手というのは、純然たる体力勝負をしているわけではない。1歳上の横山典弘が今年ダービーと宝塚記念を鮮やかな手綱さばきで制したことからもわかるように、40代でもまだまだピークを維持できる。維持できるどころか、形態の異なる世界中のコースで、さまざまなタイプの馬に乗ってきた経験を生かし、最もいい時期にすることもできる。
復活した武の騎乗が、この秋、大きな見どころになることは間違いない。