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フルセットの勝率77%は歴代1位。
錦織圭、歴史に残る勝負強さの秘密。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byHiromasa Mano
posted2014/09/04 16:30
「フルセットの試合は喜んでプレーしてます。第4、第5セットになると集中力が増す」と試合後に錦織圭は語った。
体力は搾り取られ、頭も疲れ果てていた。
セットカウント2-1。それでも錦織は波に乗れない。第3セット終了後に両者がトイレットブレークをとり、仕切直しの第4セット。静かな、しかし濃密な打ち合いはまたもタイブレークにもつれたが、今度はワウリンカが制す。
膨大な運動量が錦織の体力を搾り取り、知力を総動員させる戦いに頭は疲れ果てていたに違いない。タイブレークを落とし、「くやしさは尋常ではないくらい」だったと錦織。それでも気持ちを切らさなかった。
最終セットも劣勢だった。しかし、3度あった相手のブレークポイントをしのいだ錦織は、5-4からの相手サービスゲームでブレークポイントを握る。「ブレークポイントをしのぐのが精一杯だったが、最後にチャンスが来た」と錦織。最終セットに入って初めて訪れたブレークのチャンスは、試合を決するマッチポイントでもあった。
15-40から1本返され、30-40。ここで、ワウリンカが犯した通算78本目のアンフォーストエラー(自分からのミス)が、マラソンマッチに終止符を打つショットとなった。
伝説の選手をもしのぐ、フルセット時の勝率。
5セットでの勝利は、4回戦から2戦連続。その勝負強さを雄弁に物語るデータがある。試合が最終セットにもつれたケースでの錦織の通算勝率約77%は、ツアー歴代1位(集計は全米開幕時)にランクされる。錦織には圧勝が少なく、もつれる試合が多いという事情があるとはいえ、ビヨン・ボルグなど伝説の選手をもしのぐ、驚異的な数字である。
勝負どころでの集中力、重圧を跳ね返す精神力。錦織自身の資質がこの数字をたたき出した第一の要因だが、そのメンタルを陰で支えるのはマイケル・チャンコーチの存在だ。錦織は言う。
「彼(チャン・コーチ)自身が、強いメンタルの持ち主。集中の仕方、フラストレーションを溜めない方法、自分自身を盛り上げる方法など、いろいろ助言してくれる」
試合前の練習でも、チャン・コーチとダンテ・ボッティーニコーチが錦織を囲んで長く話し込むシーンがあった。遠目にも、チャン・コーチが身振り手振りをまじえて錦織の気持ちを奮い立たせているのが見て取れた。