Jをめぐる冒険BACK NUMBER
FC東京・武藤嘉紀と川崎・谷口彰悟。
アギーレ監督に推したい2人のJ選手。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2014/08/15 11:00
慶應大在学中は1年からエースとして活躍した武藤嘉紀。FC東京の新人で、開幕戦に先発したのは2008年の長友佑都以来だった。
クレバー、しかし対人プレーでも「強さ」を持つ。
4バックの際はパートナーの實藤友紀と臨機応変にラインコントロールをしていたが、3バックの中央を務めた19節の浦和レッズ戦では、その重責をひとりで担った。大胆に押し上げながら、こまめなライン調整でFWと駆け引きする。それがいかに的確だったかは、3バックの左に入った小宮山尊信の言葉を聞けば、よく分かる。
「ルーキーとは思えない落ち着きぶりで、見事なラインコントロールでしたね。とてもやりやすかった」
とにかく落ち着いていて、クレバーなタイプ。ただし「クレバーなDF」と言うと、これまでは「カバーリングは上手いけど、対人プレーは……」という選手が多かった。だが、谷口が従来の「クレバーなDF」と違うのは、16節のサガン鳥栖戦で豊田陽平を封じ込めたことからも窺える。空中戦やボール奪取にも一定の強さがあるのだ。
日本代表の新監督に推す意味合いも込めて例えるなら、メキシコ代表のラファエル・マルケスといったところか。
大学時代の大怪我が、武藤の精神に与えた影響。
面白いのは、ふたりとも高校を卒業する時点でプロの世界に飛び込めたにもかかわらず、大学進学を選択していることだ。
FC東京U-18に所属していた武藤は、トップチームへの昇格の話を断って、慶應大に進学した。当時を振り返って、武藤が言う。
「トップの練習や合宿に参加させてもらったんですけど、自信を持ってできなかったんです。先輩から『寄こせ』って言われたら簡単に預けちゃうし、自分で行けるのに、失うのが怖くて躊躇してしまったり。プロはみんな、生活を懸けているわけじゃないですか。当時の自分にはその厳しさがなかった。それなら、大学に行って自信を付けて戻ってきたほうがいいんじゃないかって」
進学した武藤は1年の夏、半月板損傷の大怪我を負ってしまう。
「もう一度サッカーができるようになれるか、不安で仕方なかった。でも『大学に行って武藤消えたな』って思われたくなかったから、懸命にリハビリして、必死に体を鍛え直しました。あの時期、精神的に強くなれたんじゃないかと思います」
弱みを克服し、強みに一層の磨きを掛けた武藤のもとに、古巣であるFC東京からオファーが届く。大学卒業を待たず、1年早い段階で。