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W杯優勝を置き土産にして代表引退。
鉄人ラームは葛藤を抱えていたのか?
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byGetty Images
posted2014/08/06 10:40
170cm、66kgというドイツ代表で最も小さなフィリップ・ラームが、ピッチ上では誰よりも大きな仕事を涼しい顔で成し遂げる。
キャプテンマークを巻くことでリーダーとなっていった。
ドイツ代表で彼がキャプテンになったきっかけは、4年前の南アフリカW杯直前、あるアクシデントがきっかけだった。W杯直前までドイツ代表のキャプテンを務めていたのはバラックだったのだが、当時所属していたチェルシーでのシーズン最後の試合でバラックが故障で離脱。W杯に出場できなくなったことで、ラームが主将の重責を担うことになった。
所属するバイエルンでも、そのタイミングは唐突だった。'11年の1月、シーズン後半戦が始まっている段階で当時のキャプテンだったファンボメルが急きょ移籍することになり、キャプテンの座が回ってきたのだ。
今でこそ、彼以上のキャプテンはいないと言われている。しかし、実は生粋のキャプテンというよりは、キャプテンマークを巻くことでリーダーにふさわしい人間になっていったのがラームという選手なのだ。
W杯優勝へ導いたキャプテンシーに賛辞が送られる中でも、ラームは周囲の抱くリーダー像にふさわしいような、謙虚なコメントを残している。
「僕がいなくても、ドイツ代表は上手くいきますよ。このチームはもう自分を必要としていないと信じています。僕のところにも、ドイツ代表にも、これで新しいサイクルが訪れます。次の世代にあたる選手たちは、僕よりも8つも9つも下の選手たちが多いですけど、彼らはふさわしいリーダーを見つけるに違いないですよ」
「多くのことを、毎日のように期待されてきた」
ただ、一つだけはっきりしない点がある。それは代表引退の理由についてだ。
ブラジルW杯後にラームの取材を許されたFIFAの公式マガジンなどのインタビューや、ドイツメディアの分析からうかがいしれる情報も限られている。
今回のW杯が、'04年のクロアチア戦で代表デビューを果たしてから10年という節目のタイミングだったことは理由の一つだろう。また、『キッカー』誌はドイツ代表でもバイエルンでも常に「多くのことを、毎日のように要求されてきた」というラームのコメントから、精神的な疲労もあったのではないかと分析している。