沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
震災から3年を経たそれぞれの思い。
相馬野馬追の侍たちが生きる日常。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byAkihiro Shimada
posted2014/08/03 10:40
市街地を練り歩く騎馬武者行列。前から3番目が大山ヒルズの佐藤弘典さん。
はじめから波乱含みだった神旗争奪戦。
蒔田さんが乗ったのは、宇都宮大学馬術部から借りたハルカゼという馬だった。20歳ということ以外は、サラブレッドなのかも元競走馬なのかもわからないという。
27日の午後1時過ぎから神旗争奪戦が行われた。今年ははじめから波乱含みだった。例年になく風が強く、打ち上げられた神旗が何度となく内馬場を出て観客席まで流され、無効になった。強風に乗った神旗を追いかけて他馬に激突、落馬し、救急車で運ばれる騎馬武者も複数いた。
そんなとき、内馬場の1コーナー寄りのところに落下した旗を獲るため騎馬武者が殺到し、1頭が倒れたまま動かなくなった。
「大丈夫でしょうか」という場内アナウンスが響く。
まさかと思って近づくと、嫌な予感が当たってしまった。
「相馬侍の根性、見てくれた?」
横たわっていたのは蒔田さんのハルカゼだった。
蒔田さんの姿が見えない……と思っていたら、ハルカゼが立ち上がり、周囲から安堵の声が漏れた。
ハルカゼの隣に、蒔田さんが立っていることに気がついた。彼の手には黄色い旗があった。彼は、落馬しながらも御神旗を獲っていたのだ。
「匠馬と一緒に獲ったよ」
小高郷の陣屋に戻ってきた蒔田さんの目には涙が浮かんでいた。
「おめでとうございます」
と私が差し出した手を、彼は力強く握り返した。
「相馬侍の根性、見てくれた?」
こんなに晴れやかな男の笑顔を、久しぶりに見たような気がした。