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イングランドがW杯8強で満足の理由。
期待薄の代表と、絶好調のルーニー。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2014/05/29 10:30
デンマークとの親善試合では60分で退いたが、プレー面においてもメンタル面においてもルーニーがチームの支柱であることは間違いない。イングランドの至宝はその価値をブラジルでも証明できるか。
契約更改を経て、精神状態は過去最高。
もちろん、最も納得できずにいるのは当人だ。ルーニーは「W杯無得点」を指摘する世間の声を受けて言っている。
「これまでだって、ゴールを決めて貢献したい一心でやってきた。自分に余計なプレッシャーをかけるつもりはないけど、決意は変わらない。チームのために全力でやる」
幸い、今季を終えたルーニーの精神状態は、W杯前としては過去最高の安定度だと言える。昨年は移籍が噂され続けたが、今年2月の新5年半契約を以てマンU残留が決まった。しかも、週給にして30万ポンド(約5千万円)という超高待遇。プレミアリーグの最高給取りになったプライドは、続くリーグ戦2試合の計2ゴール1アシストからも窺い知れた。特に、契約翌日のクリスタルパレス戦で決めた鮮やかなボレーには、「移籍をたてに昇給を強いた」という論調だった国内各紙も、「昇給の価値あり」と手の平を返している。
マンUの主役に返り咲いた誇りは、それ以上に違いない。移籍2年目のロビン・ファンペルシに故障が多く、7位に終わったチームにあって唯一人、覇気を見せ続けたのがルーニーだった。
ホームで地元ライバルに完敗した3月後半のマンチェスター・シティ戦、翌月に監督就任10カ月目の解雇が待ち受けていたデイビッド・モイーズが、実質的にクラブ経営陣とサポーターの信頼を失った一戦でも、ルーニーだけは反撃の口火を切ろうと最後まで闘っていた。
その3日前、2ゴールでチームの全得点を上げたウェストハム戦では、ハーフウェイライン付近から“超ロングボレー”を披露。そのテクニックもさることながら、メンタルの充実がなければ、迷わず右足を振り抜くことは難しかっただろう。
スタリッジを後方からサポートするトップ下起用か。
代表でも、ピッチ上での孤立が苛立ちを募らせた1トップではなく、ボールに触れる機会が多いトップ下での起用が見込まれる点が好材料だ。イングランドは、今季リーグ得点王次点のダニエル・スタリッジというセンターFWの台頭を見た。揃って先発した3月のデンマーク戦では、スタリッジのアウトサイド起用が裏目に出て連係がいま一つだったが、本大会では前線中央のスタリッジを、背後からルーニーがサポートする形が基本になると思われる。