ブラジルW杯通信BACK NUMBER
メッシ、全てを得た男の最大の挑戦。
母国の不信と代表引退危機を超えて。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byGetty Images
posted2014/05/12 10:50
2011年に就任したサベージャ監督からキャプテンに指名され、予選を戦う中で国中の信頼を勝ち得たメッシ。26歳、キャリアのピークと言える年齢でのW杯は彼がいまだ持たないフル代表でのビッグタイトルをもたらすだろうか。
過去の代表監督たちが目指した「メッシ・システム」。
とはいえ、そもそもまともにパスを出せる選手が中盤におらず、チームとして連動性のかけらもなかった近年のアルゼンチンにおいて、シャビ、イニエスタら世界最高レベルの選手たちと何年もかけて連携を深めてきたバルセロナと同じプレーをしろと言う方が無理な話である。
もちろん過去の代表監督たちは、それぞれの方法でメッシを中心に据えたチーム作りを試みてきた。マラドーナは現役時代の自分さながらにメッシ1人に全てを任せ、セルヒオ・バティスタはバルセロナの戦術をそのままコピーしたポゼッションスタイルを目指したのだが、彼らのチーム作りは志半ばで失敗に終わっている。
2011年のコパ・アメリカ後にバティスタの後を継いだアレハンドロ・サベージャも、前任者たちと同じくメッシを輝かせる術を見いだすのに苦労した。
就任間もなく始まったワールドカップ予選では初戦でチリを破るまでは良かったものの、その後はアウェーでベネズエラに敗戦、ホームでボリビアと1-1ドロー。この時点でサベージャは早くも解任寸前まで追い込まれた。
変動システムで、4人のアタッカーを同時起用。
しかし、ここで転機が訪れた。ボリビア戦から中3日、強豪コロンビアを逆転で下したアウェー戦である。0-1で迎えたこの試合のハーフタイムに、サベージャはそれまでメッシとイグアインの2トップだった前線にアグエロを加えた攻撃重視の布陣に変更したのだが、これが見事に当たったのだ。
その後サベージャは、攻撃時はメッシとディマリアが2列目に並ぶ4-2-2-2、守備時はディマリアが1列下がって3ボランチを形成する4-3-1-2に変形する、現在の変動型システムを考案する。ディマリアが2役を務めることにより、4人のアタッカーを同時起用しながら守備のバランスもとることが可能になったのだ。
このシステムが定着して以降、メッシは右ウイングとトップ下を兼ねる広範なプレーエリアを自由に動きながらチャンスを作り、自らフィニッシュにも加わる攻撃の中心として伸び伸びとプレーするようになった。
アグエロとイグアインが前線に構え、メッシとディマリアが2列目からドリブル突破を仕掛けていく攻撃は破壊力抜群だ。バルセロナほど厚みのある攻撃はできないが、ポゼッションが低い分だけ仕掛ける機会の多い速攻のスピードと決定力の高さは世界最高と言えるレベルにある。