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“ミスター・タイガース”に育て!!
一二三慎太への阪神の異常な愛情。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2011/01/17 10:30
オーバースロー時代に149キロ、サイドスローに変えてからも150キロを記録するほどの強肩にしてコントロールも抜群。しかもバッティングセンスにも優れているという一二三
大阪出身で、なおかつ貴重な「甲子園のヒーロー」。
「スター候補」ということは、阪神の場合、必然的に「ミスター・タイガース」候補であることを意味する。
ドラフト前は、一二三の獲得に阪神はそれほど積極的でもないと思っていただけに、この指名はちょっとしたサプライズだったが、彼の球歴を紐解けばそれもすぐに納得できた。
高校は神奈川の東海大相模だが出身地は大阪。中学時代は堺市のボーイズチーム、ジュニアホークスで抑えを務め、ジャイアンツカップで全国制覇を果たしている。
そして記憶に新しいのが昨年の甲子園だ。
センバツではナンバーワン投手と騒がれながらも初戦敗退。大会後に極度のスランプに陥り、投球フォームをオーバースローからサイドスローに変更。「迷走」など厳しい声が飛んだが、「バッターを打ち取ることだけを考える」とマウンド上では常に集中し、チームを33年ぶりに夏の甲子園に導き準優勝。全国の舞台で、自分の選択が間違っていなかったことを証明してみせた。
阪神の地元である大阪の出身で、チームがホームとする甲子園を沸かせたヒーロー。
一二三にはミスター・タイガースを継承しうる資格が十分に備わっている。だからこそ、球団はスター街道というレールを用意したのだ。
阪神ファンとメディアによる「過剰な期待」にさらされる。
ただ阪神の場合、報道の仕方が過剰なだけに、期待は「洗礼」にも置き換えられる。
選手からすれば、期待値が高まれば高まるほど、それと比例するようにプレッシャーも重さも増す。実際にこれまでも、一二三のように潜在能力が高く、将来を有望視されていながら、見えない重りを跳ね除けられず阪神を去っていった選手が何人もいた。
過去の事例を引き合いに、一二三もいずれそうなってしまうのではないか……そう危惧してしまうファンも少なからずいるだろうが、きっとそうはならないだろう。それはなぜか。
東海大相模に入学を決めた理由に、彼の芯の強さを感じたからだ。彼はこう語っている。
「大阪にも強豪校がたくさんありますけど、神奈川は日本一の激戦区と呼ばれていますからね。厳しい環境のなかで自分の力がどれだけ通用するか試したかったんです」