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“ミスター・タイガース”に育て!!
一二三慎太への阪神の異常な愛情。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2011/01/17 10:30
オーバースロー時代に149キロ、サイドスローに変えてからも150キロを記録するほどの強肩にしてコントロールも抜群。しかもバッティングセンスにも優れているという一二三
2011年1月6日、阪神タイガース選手寮「虎風荘」の入寮日、母親が荷物を搬入した。
9日からの新人合同自主トレは「他の選手に感染する恐れがある」とのことで参加を見合わせた。
阪神のドラフト2位・一二三慎太は、「溶連菌感染症」にかかったのだという。
なにやら深刻な響きを持つ名称だが、主な症状としては発熱やのどの痛み。言ってしまえば「風邪」だ。しかし、彼の場合だとそれでは説得性に欠ける。というより話題性が増長されにくい。だから具体的な病名を出す。
周囲の目を一二三に向かせるべく、球団やメディアは様々なアプローチをかける。
入団後の体力測定で新人選手中トップの懸垂16回を記録すると、「鳥谷(敬)は13回で能見(篤史)は10回。高卒選手としては驚くべき数字だ」とトレーナーの言葉を用いながら身体能力の高さをアピール。
そのほか、「一二三」という苗字にちなんで、甲子園でのお立ち台に上がった際にはアントニオ猪木のお約束パフォーマンスである「1、2、3、ダーッ!」を、「ひ、ふ、み、ダーッ!」とアレンジして大観衆に披露するという青写真を早くも描かせる。
阪神のルーキーのなかで最も注目されている選手が一二三であることは間違いない。
球団が明言する「スター候補」という位置づけ。
球団の期待感はドラフト指名直後から表れていた。それは、メディアに配布される選手紹介を見れば一目瞭然だった。
“非常に高い身体能力の持ち主。(中略)今ドラフトの高校生ではトップレベルであり、将来がとても楽しみ。プロで育てがいのある選手。スター候補として期待する”
ちなみに、東京ガスからドラフト1位で指名された榎田大樹の選手紹介の一部を紹介すると、“ゲームを作れる投手。1年目からローテーションに入ることができる即戦力左腕”と記されている。
実力が未知数の高校生と即戦力として入団する社会人とでは評価の仕方が違う。
だが、球団の一二三に対する昂揚感は文面を比較すれば十分に伝わる。