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ガードナーの契約延長で外野は満席。
ヤンキースの決断は「保険」イチロー。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byThomas Anderson/AFLO
posted2014/02/26 10:40
新加入の田中将大らとともに体を動かすイチロー。控えでの開幕が確定的な状況でも「いつも勝負してます。マリナーズのときだって、勝負してないことはない」と自らのなすべきことに集中していた。
どうやらヤンキースのイチローは開幕を控えでスタート……ということになりそうだ。
球団は23日、昨シーズンは1番で起用されることが多かったブレット・ガードナーとの契約延長を発表した。内容は2015年からの4年契約で5200万ドル(およそ53億円)。
メジャーリーグの場合、開幕時の先発メンバーはだいたい年俸の順番に決まっていくから、ヤンキースの外野はレフトにガードナー、センターにレッドソックスから移籍してきたジャコビー・エルズベリー、そしてライトにはカーディナルスからFAでやってきたカルロス・ベルトランの布陣となる。
となると、アルフォンソ・ソリアーノは指名打者、イチローは控えということになる。
ストーブリーグでエルズベリー、ベルトランを獲得した時点で、私はイチローがトレードされることを予想した。一部にはガードナーがトレード要員、とする報道もあったが、まだ30歳で、「価格」の安いガードナーは保持するだろうと思っていた。
しかし、今回の契約延長の年数には、正直言って驚いた。それだけ、ヤンキースはガードナーの走・攻・守と三拍子そろった能力を評価していたのだ。
ジーターが去れば、生え抜きはガードナーだけに。
そしてもうひとつ、ガードナーがヤンキースの生え抜きの選手だということも影響しているのではないか――そう思った。
キャプテンのデレク・ジーターが今季限りで引退を表明し、球団は今後数年間、チームの顔となる選手を探していくことになる。ヤンキースの「アイデンティティ」を再確立するためにはとても重要な時間だ。
そこで生え抜きの選手を大切にすることが重要になってくる。ヤンキースの内情といえば、ロビンソン・カノーがマリナーズへと去り、野手で生え抜きの選手といえば、ガードナーとジーターしかいない状況になっている。
競争の激しいアメリカン・リーグ東地区を勝ち抜くためには、今季のようにフリーエージェントの目玉となった選手と契約を交わして、戦力を維持していくしかない。
そうなると、球団としてのアイデンティティの確立が困難になってくる。ジーターのように勤勉かつ華麗、いかにもチームの顔となる選手は一朝一夕には育たない。