スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
テレビならではの五輪の楽しみ方。
「言葉力」で選ぶ、解説のMVPは誰だ。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph bySunao Noto/JMPA
posted2014/02/17 11:40
現地での観戦が持つ臨場感は特別なものがあるが、テレビで、解説や実況を聞きながらスポーツを観る、というのもまた別の意味で特別な体験になりうるのだ。
現役選手ならではの、スキーを評する一言。
東京・NHKのスタジオには、現役の回転の選手である皆川賢太郎が招かれていたが、表現にインテリジェンスがあふれていた。まず、唸ったのは次の言葉だった。
「スキーは落下するスポーツです」
ここまですっきりと表現できるのは、競技者としてスキーを突き詰めたからだと思った。
落下の方法に、直線的な滑降から、スラローム技術が問われる回転まで4種目があるというわけだ。
日本の選手は、回転では世界にくらいついているが、滑降の選手が育たないのは、
「日本には滑降のコースに適した急斜面がないからなんです」
とシンプルな答え。日本の山々では、なかなか練習がままならず、若い時からヨーロッパを転戦しなければならない。
要は「環境」の違いなのだ。
また、スキー板に塗るワックスの重要性も指摘し、
「『サービスマン』と呼ばれるスタッフが、雪質に合ったワックスを選び、丁寧に塗っていくんです」
と話していた。表彰台には乗らない人物の働きが選手の成績を左右する。そうした事情もきちんと伝えていた。
現地解説の川端絵美の声は松任谷由実!?
そして現地の解説は、かつて滑降の世界で堂々と渡り合った川端絵美である。15歳でフランスに留学し、1989年に開かれた世界選手権では、滑降で5位入賞の実績を持っている。
まず、この人の解説は「声」に特徴がある。女性としては極めて低音なのだが、それが安心感につながっている。
誰かの声に似ているな……と思っていたら、松任谷由実の声、話し方にそっくりなのだ。その似ている度合いは、驚くほどである。