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上村愛子、全力を尽くし笑顔の4位。
5度目の五輪は、成熟した人間として。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byKaoru Watanabe/JMPA

posted2014/02/09 11:45

上村愛子、全力を尽くし笑顔の4位。5度目の五輪は、成熟した人間として。<Number Web> photograph by Kaoru Watanabe/JMPA

演技を終え、ライバルたちと健闘を称えあった上村愛子。メダルに手は届かなかったが、その表情に後悔の色は全くなかった。

「全部全力でできたので、満足度は高いです」

「やるからにはメダルを」と、必死にフィジカルも技術も取り戻そうと努め、迎えた5度目のオリンピックでも4位。

 今大会でもメダルを取ることはできなかった。だが、今までとは大きく異なっていた。

「これをしておけばよかった、というようなところは一切なかったです」

「バンクーバーやトリノもちょっとしたミスをしたり、少し体が後ろに下がって攻めきれない滑りをしていたと思いますが、ソチに関しては全部全力でできたので、満足度は高いです」

 その滑りがそのまま順位に反映されたとは言いがたい。それでも、今までの、どこか悔いを残してきたオリンピックでの滑りとは一線を画す、まさに渾身の滑りだったからこその、穏やかな笑顔だった。

 上村のキャリアは第一線で活躍する選手となってゆうに10年を超える。試行錯誤し、ときに苦しみながらも理想の滑りを追い求めてきた。休養を挟みながら復帰し、34歳にして大舞台で、ついに手放しで喜べる滑りを体現することができたのだ。そう思い至ったとき、何よりも心を揺さぶられた。

取材に答える姿は、成熟した人としての姿だった。

 そしてその事実は、メダルに等しい、いや、アスリートとして、それ以上の価値を持つものではないか。

 表彰台を逃した上村は、待ち構えるメディアの前に向かった。テレビを中心とする囲み取材が30分、40分……と続く。通常よりも、他の競技の選手よりもひときわ長い時間だ。それでも、嫌な顔も疲労も一切見せず、打ち切ろうともせず、ひとつひとつ丁寧に答え続ける。成熟した人としての姿があった。

 その取材の中で、こんな言葉も口にした。

「オリンピックは、本当に楽しい場所です。悔しい思いも苦しい思いもするけど、自分も成長するし、最高の場所です」

 34歳にしてなお成長したことを示し、5大会連続入賞を果たし、上村愛子はソチ五輪を笑顔とともに終えた。

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