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<モーグル、Wエースの現在地> 伊藤みき×上村愛子 「不屈の決意を抱いて」 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byShino Seki

posted2014/02/06 06:15

<モーグル、Wエースの現在地> 伊藤みき×上村愛子 「不屈の決意を抱いて」<Number Web> photograph by Shino Seki

五輪が間近に迫る中、伊藤は右膝に大怪我を負った。

 12月14日のワールドカップ開幕が間近に迫る中、ひとつのニュースが伝えられた。

 12月7日、フィンランド・ルカでのナショナルチーム合宿の練習中、伊藤が転倒し怪我を負ったというものだった。

 帰国した伊藤は12月16日、都内の会見場に姿を見せた。右膝は動かさないよう、装具で固定され、歩くたびに手に持った杖をつく。その姿にも増して、伊藤が明らかにした怪我の状態は衝撃だった。「前十字靱帯の損傷」。手術をすれば全治8カ月。重傷だった。ふだんの穏やかな、柔らかい表情はみじんもない。鋭い眼、険しい表情が、事態の深刻さを雄弁に物語っているようだった。

 次の言葉はさらに強い衝撃をもたらした。

「ソチを目指します」

 怪我の状態を考えれば、誰もが厳しいと思っていた。本人もそうだろう。26歳ならまた競技人生を続けていくこともできる。オリンピックをあきらめて治療を優先する選択肢もある。アスリート人生を考えれば、無理をするリスクは決して、小さくない。

「この足で勝てるよう取り組んでいきたいと思います」

 それでも「目指す」ときっぱり言った。

「うまくいかないからといって、金メダルを取るという目標を変えるのは嫌でした。バンクーバーの後、覚悟を決めてソチに向けてやっていくと決めたので、この足で勝てるよう取り組んでいきたいと思います」

 これほどまでに充実した時間はなかった。だからこそ……悲壮な言葉の裏側にある心情は容易に推し量れないし、安易に言葉にすることもできない。ただ、伊藤の決意の強さが、
そこにはあった。

 伊藤が不在の中、12月14日、ルカでのワールドカップ開幕戦に臨んだ上村は3位と上々のスタートを切った。

【次ページ】 存在感を見せた上村は、伊藤のことをおもんばかった。

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