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<モーグル、Wエースの現在地> 伊藤みき×上村愛子 「不屈の決意を抱いて」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2014/02/06 06:15
「自分がいちばん、オリンピックを楽しみたいです」
昨シーズンの好成績は、必然、メダル候補として注目を集めることにもなった。だがプレッシャーはさらさらないようだった。
「目標としていたことをほぼクリアできていて楽しいですし、こうやってたくさんのメディアの方も含め、そこに向かって夢をひとつに、戦っていけると思うと、百万馬力というか、違った楽しさがあります」
そこには長年の思いも影響していた。昨秋のことだ。伊藤はこう口にしたことがある。
「中学生のときは姉が先に日本代表に入っていて、そのあと日本代表になったら先輩の方々がいて……。だから、こうして注目してもらえる存在になったのがうれしいんです」
日陰者と言ったら言い過ぎではあるだろう。だが、頑張っても注目されるのは自分ではないことに、負けず嫌いの血は騒いだ。
だからこそ、今が楽しかった。
こうして迎えようとしていたソチ五輪は3度目のオリンピックだった。初めて出場したトリノの前は「世界でいちばん大きなお祭りのようなもの」と思っていた。出場してみて、新たな発見があった。「表彰台の真ん中に立った人がいちばん楽しめるんだ」
いつか、自分がいちばん楽しみたい。
「その思いは、今も変わらないです。自分がいちばん、オリンピックを楽しみたいです」
シーズン開幕を前に伊藤は言った。バンクーバーでは実現できなかった夢が近づいている実感が、表情にも、言葉にも表れていた。
伊藤ら若手の台頭もあり、最年長となった上村の変化。
「今? お母さんみたいな心境ですかね」
上村愛子は笑った。そして続ける。
「(伊藤)みきちゃんは8つ歳下で(村田)愛里咲ちゃんなんて11歳下なんですよ。お母ちゃんも一緒に頑張るぞ、という感じ(笑)」
過去4度のオリンピックは7位、6位、5位、4位。4大会連続入賞は十分評価に値するが、メダルを手にすることはできなかった。必勝を期してかなわなかったバンクーバーで「どうして一段ずつなんでしょう」と涙を流した後、1年間の休養に入る。そして「やりたいことがみつからなかった。やっぱり自分にはスキーしかない」と新たな目標を見定め、本格的に復帰して2シーズン目を迎えていた。