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「3年契約×10億円でドジャース移籍」
マー君獲得の商業的正解はこれだ! 

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並木裕太

並木裕太Yuta Namiki

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photograph byHideki Sugiyama

posted2014/01/16 10:50

「3年契約×10億円でドジャース移籍」マー君獲得の商業的正解はこれだ!<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

人気は商業的価値を計る重要な要素。ファンの田中将大への支持は絶大だが、アメリカでも人気を博すことができるか。

野茂、イチロー、松井は黒字。松坂、福留は赤字?

 論文ではこれらの観点に基づいて、野茂英雄、イチロー、松井秀喜、松坂大輔、福留孝介の5選手について獲得球団の投資効率を分析。その要点を表にまとめると、次のようになります。

●主な日本人メジャーリーガーの経済合理性
選手/チームプロファイル チームにとっての投資 チームにとっての収入 チーム
収支
選手名
(移籍年)
投手/
野手
所属球団
(本拠地)
獲得費用 追加スポンサー 追加観客 (経済
合理性の
総括)
契約金 年俸 主な企業名 推定
総額
観客数
(前年比)
推定
総額
野茂英雄(1995) 投手 ドジャ-ス
(ロサンゼルス)
2億円
(自由契約)
1000万円 吉野家 不明 +4% 7.5億~
12億円
黒字
イチロー(2001) 野手 マリナーズ
(シアトル)
約13億円
(ポスティング)
4億円 任天堂、
味の素、
コナミ、日産、
ニコン、
佐藤製薬、THK
6億円 +11% 45億円 大黒字
松井秀喜(2003) 野手 ヤンキース
(ニューヨーク)
0円
(FA)
7億円 味の素、
富士フイルム、
コマツ、読売
新聞社
6億円 +1~2% 30億円 大黒字
松坂大輔(2007) 投手 レッドソックス
(ボストン)
約51億円
(ポスティング)
8.7億円 船井電機 9000万円 ±0% - 大赤字
福留孝介(2008) 野手 カブス
(シカゴ)
0円
(FA)
12億円 - - ±0% - 赤字
※論文「How Major League Baseball Clubs Have Commercialized Their Investment in Japanese Top Stars」をもとに独自に作成
※移籍初年度のデータ
※簡略化のため、1ドル=100円で計算
※観客収入=チケット収入+スタジアム内グッズ収入+スタジアム内飲食収入

 各選手の評価について簡単に説明しましょう。

 まず、パイオニアとして海を渡り、トルネード旋風を巻き起こした野茂投手。ドジャースは吉野家など数社のスポンサーを獲得しました。ただ当時は「スポンサーは球団本拠地から100マイル以内の企業に限る」というMLBのルールがあったため、吉野家も含めて契約先は日本企業の現地法人だったと予想されます。そのため、スポンサー収入の額はそれほど伸びなかったはずですが、野茂投手の活躍はファンの注目を集め、登板日には通常より5,000~8,000人多い観客数を記録しました。年俸も低く、ドジャースにとって野茂獲得は「黒字」の投資だったと言えるでしょう。

イチロー、松井は多くのスポンサーと観客増で貢献。

 イチロー選手はポスティング制度を利用したため獲得コストはやや高くつきましたが、日本での人気は抜群で多くのスポンサーを呼び込みました。2001年はマリナーズが116勝を挙げて地区優勝を果たした年であり、11%の観客増すべてをイチロー効果と断言することはできませんが、論文によればこの年、イチロー選手がマリナーズの収入にもたらした効果は45億円にも達したといいます。マリナーズの投資は、「大黒字」だったのです。

 FAでヤンキースに移籍した松井選手もまた日本での人気の高さを反映して、多くの日本企業を連れてきました。ヤンキースと読売新聞社が共同会社を立ち上げ、日本国内で積極的に営業活動を行なったのも功を奏しました。さらにヤンキースタジアムに来る日本人の観客数(1試合あたり)は2002年までの1,000人から5,000人規模へと飛躍的に増加。当然、球場内でのグッズ売上の伸びにも貢献し、ヤンキースも松井獲得という投資で「大黒字」を達成しました。

【次ページ】 最大の要素は「観客数が増える余地があるか」?

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