スポーツ百珍BACK NUMBER
都決勝でハットトリック直後に塾!?
選手権に見る、文武両道の真剣度。
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/12/29 08:01
雪で決勝戦が延期になった、前回の高校サッカー選手権。決勝が行なえたことは幸いだったが、文武両道が問われる事件でもあった。
「実はこれから、塾があるんですよね」
表彰式後、取材でサッカーと学業との両立について聞かれると、本人はあどけない表情で答えた。
「実はこれから、塾があるんですよね。授業は18時からなので……」
西が丘のミックスゾーンに設置されていた時計を見ると、17時25分。目を丸くした報道陣の前で松村は続けた。
「でも授業は20時まであるので、遅れても行くつもりです」
強豪校である国学院久我山には、もちろんスポーツ推薦で入学した選手もいる。しかし松村は一般入試、それも中学受験で入学した内部進学組だった。テクニカルな選手たちが揃うサッカー部の中で、求められるのは高度なスタイル。人は簡単に「文武両道」というが、おいそれと実践できるほど容易なものではない。
そもそも、サッカーか学業のいずれかで結果を残すだけでも大変なことなのだが……。
「睡眠時間は7時間くらい取れています」
松村はそう言うが、起床は朝5時で、7時過ぎからは朝の講習を受ける。そして部活と週3回の塾。心がくじけそうになったことはなかったのだろうか。
「他のみんなもそうですけど、両立は大変でしたし、このまま(部活を)続けていいのか? と悩んでいた時期もありました。でも家族が両立に賛成して励ましてくれたのが大きかったです。『部活も、勉強もがんばってみよう!』と」
12月30日に開幕戦、1月18日にはセンター試験に臨む。
その葛藤を乗り越えた松村にとって、決勝戦でのハットトリックを含む都大会での4戦8得点のゴールラッシュは、ご褒美のようなものだったのかもしれない。
「サッカーは生き物でやってみなければ分からない。今日は少し中盤がよくなかったですし、厳しい試合になるとミスが生まれますから。……ただ、イチローだってヒットを打てない時があるわけですしね(笑)」
決勝戦の内容について、独特の表現で反省点を口にした李監督。それでもサッカーと学業の点に話題が移ると、こう答えた。
「受験組には時間を与えます。子どもたちを一度リフレッシュさせて、コンディションを上げていこうと。その上で、私は高校サッカーに携わっている『選手権バンザイ!』の人間なので、サッカーでも夢を与えてあげたいですね」
12月30日、国立競技場での開幕戦にはその国学院久我山が登場する。さらに松村ら大学受験を目指す選手たちにとっては1月18、19日にセンター試験があり“2つの戦い”に挑むことになる。
「今は、大学でもサッカーを続けたいと思っています」
松村に象徴される“スマート・フットボール”で、国学院久我山はベスト8に進出した第87回の再現を目指す。