スポーツ百珍BACK NUMBER
高校サッカーの“今”を凝縮した決勝。
鵬翔と京都橘の明暗を分けたもの。
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byYUTAKA/AFLO SPORTS
posted2013/01/21 12:55
後半4分、鵬翔はコーナーキックから1-1の同点に。ヘディングシュートを決めた芳川は試合後、「相手がゾーンディフェンスなのは分かっていた。間に飛び込めばチャンスになると思っていた」と、セットプレーへの自信を語った。
悪天候のため5日の延期となった第91回全国高校サッカー選手権決勝、鵬翔(宮崎)vs.京都橘(京都)。
1点を追う鵬翔の松崎博美監督がハーフタイムに下した決断が、試合を動かした。
MF中濱健太を後半開始から投入したのである。中濱は、大会直前に負傷した左膝半月板を手術したため、準決勝まで1試合あたりの出場時間を15分以内に留めていたが、決勝の舞台で早めの投入に踏み切った。
「スタミナは心配でしたが、相手の背後を突くためにはスピードのある選手が必要でした。だからこそ、(中濱を)後半スタートから投入しました」
試合後に松崎監督はこう語ったが、その狙いは3分も経たないうちに的中した。
決勝戦を観戦に訪れた同校OB、興梠慎三(鹿島→浦和)が高校時代に背負った背番号13を継承し、50mを5秒台で駆け抜けるサイドアタッカーは、後半開始直後にハーフライン上から高速ドリブルを仕掛ける。
京都橘の10番を背負う俊足の小屋松知哉がドリブルコースを限定するものの、中濱はカバーに入った相手DFをさらにスピードを上げて抜き去り、ペナルティエリア脇まで切り込んだ。そのプレーでCKを獲得した鵬翔は、今大会でチームの得点源となったセットプレーで力を発揮する。
鵬翔のキッカーがボールを蹴る前に行なっていた“予備動作”。
今大会で鵬翔のキッカーを務めていたのはDF日高献盛とMF小原裕哉の二人だったが、彼らはボールを蹴る前に“予備動作”を行っていた。
二人は助走距離を取ると同時に自分の肩や腕を触って、まるで野球で行うようなサインをゴール前のターゲットに送っていたのだ。この意思疎通は決勝戦の舞台でも冴えを見せていた。前半13分には角度のない左サイドのFKから、鵬翔の選手がゴールライン上近くに殺到したところへ小原が際どいボールを送り込むなど、惜しいシーンを作っていた。だからこそ、本調子ではない中濱が独力で創出したCKから何が何でもゴールが欲しかった。
「キッカーがいいので、サイン通りのボールが来ると思っていました」
DF芳川隼登が信じていた通り、ゾーンで守る京都橘の守備陣をあざ笑うかのように、キッカーを務めた小原は針の穴を通すようなコントロールでボールを供給した。芳川は、打点の高いヘディングできっちりと合わせるだけだった。鵬翔は今大会6点目となるセットプレーからの得点で、同点に追いついたのだった。