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前人未到のGI通算100勝に思う、
武豊と同時代に競馬を見る幸せ。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byYuji Takahashi
posted2013/11/26 12:45
武豊と藤原英昭調教師。2010年に武が落馬負傷した際に乗っていたザタイキは藤原師の管理馬だった。その年のダービーをエイシンフラッシュで制した藤原師は「武豊のいるダービーで勝ちたい」と繰り返していた。
今の騎乗にある、200勝時代以上の「凄み」。
2010年春の落馬を機に有力馬への騎乗が減り、昨年は年間56勝と、デビュー以来最低の勝ち鞍に終わった。同年夏に復帰したが、しばらく痛みや違和感が残っていたのだろう、ここ1年ほどの騎乗と比べると、明らかに「らしく」なかった。
長く王座にいた者は、ちょっと成績が落ちると「待ってました」とばかりに叩かれるものだし、今年44歳という年齢から、一部では「衰え」も指摘された。
しかし、今の武の騎乗には、「不可能」と言われた年間200勝を楽に突破していたころにもなかった「凄味」がある。衰えたどころか、騎手としての総合力では、成績のうえで全盛期と言える30代のころより上なのではないか。騎乗馬の質さえ戻れば、また年間200勝ペースで勝ちつづけるだろう。
思い出深い勝利は、凱旋門賞を思い浮かべたい。
マイルチャンピオンシップ直後のインタビューで、「思い出深い勝利は」と問われ、
「早く凱旋門賞を思い浮かべたい」
と答えたあたり、いかにも彼らしいな、と思った。
彼の頭は実にやわらかく、受け答えのほとんどがアドリブである。「思い出深い勝利」というと、普通は「初GI制覇となったスーパークリークの菊花賞かな」などと想像してしまうところを、今後加えたい勝利の「凱旋門賞」と答えるあたり、「一本とられた」という感じがする。
トーセンラーにとってこれが初のマイル戦だったことに関しても、「いや、いつも走っている距離だから」と笑わせた。確かに、ラーが勝ってきた1800mや2200mのレースでは、必ず1600mを通過しているわけだが、なかなかそんなふうにとらえて「考えすぎて、自ら可能性を潰すようなことはしたくない」といったことを伝えるなど、できるものではない。
また、そのインタビューで、
「来週101勝できるよう頑張りたい」
と答えたのも、実は「武豊流」だ。