Jをめぐる冒険BACK NUMBER
ジュビロ降格の陰に3つの「不在」。
パートナー、リーダー、そして伝統。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byAFLO
posted2013/11/12 10:30
不振を極め、いまだ得点が1ケタにとどまるエース・前田遼一。獲得を目論む国内外のクラブも多いなか、今冬の去就に注目が集まる。
“気が利く”前田が、金園にポジションを譲る悪循環。
ストライカーとしての本能がそうさせるのか、どうしても金園のほうが先に動き出し、ゴール前の良いポジションに入ろうとすることが多かった。
一方、前田は気が利くあまり、金園の動きを気にしながらポジションを取り、チャンスメイクに回るケースが増えたようだった。結果として前田はゴールから遠ざかった。
それはデータにも表れている。実は前田は、金園と2トップを組んだリーグ戦で今シーズン、1点も奪えていない。ここまで前田はリーグ戦で9ゴールを奪っているが、いずれも1トップで起用された場合か、山崎亮平や阿部吉朗、松浦拓弥といったセカンドストライカータイプと2トップを組んだときに限られるのだ。
森下前監督も、関塚隆監督も、ふたりのストライカーを同時起用することで得点力アップを狙ったのかもしれないが、それが裏目に出てしまったという印象だ。
「先制しても焦るし、失点しても焦るものなんですよ」
真のリーダー、いわゆる“ピッチ上の指揮官”が不在だった点も、降格の要因だろう。
5月4日に森下前監督が解任され、中断期間が明けた7月6日、14節のセレッソ大阪戦から関塚監督が指揮を執った。
1勝3分けとまずまずのスタートを切ったが、18節の浦和レッズ戦でロスタイムに決勝点を奪われて敗れると、そこから雲行きが怪しくなった。
内容は悪くないのにゴールが奪えず、反対に、あっさりと失点してしまう。
何かがおかしい。だが、その何かが分からないでいるうちに、気づけば残留争いにどっぷり浸かり、抜け出せなくなってしまう。
実力者が揃うエリート集団ほど、経験したことのない「J2降格」のプレッシャーに弱い。失点のトラウマと降格の恐怖に怯え、試合の終盤を迎えるとプレーが縮こまるのは、'10年のFC東京や'12年のガンバ大阪が降格した際にも目にした光景だった。
先制しながらラスト10分間で逆転された29節の川崎フロンターレ戦のあと、相手のエース、大久保嘉人がこんなことを言っていた。
「残留争いをしていると、先制しても焦るし、失点しても焦るものなんですよ。今日の磐田は先制した途端にオドオドし始めたね」
残留争いの経験がある彼の言葉は、磐田の選手たちの心理状態を言い当てているように思えた。